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「シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々」読了

「シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々」
ジェレミー・マーサー著 市川恵里訳
(河出文庫)

この本は、著者のジェレミー・マーサーが2000年初頭から数ヶ月間「シェイクスピア&カンパニー書店」という風変わりな書店で生活した記録だ。
店主のジョージは、貧しい作家や詩人たちを自分の書店に泊めて、代わりに彼らに店番をさせていたりする。泊めてもらっている彼らも、個性的な人間ばかりで、その日の食事に事欠くような生活をしながら物語や詩を書いて、本を読んでいる。

著者は元々新聞記者をしていたが、「ある人物」から脅されてフランスのパリに逃げ込み、この書店に辿り着いた、やはり変わり者だ。
変わり者の彼らが風変わりな書店で人生を交錯させる様子を、著者は淡々と書いている。

この本は、ドキュメンタリーであり、物語であると思う。
非日常のような日常を、書店に設置した定点カメラで追いかけたような面白さがあり、汚い本屋でボロを身に纏った登場人物の一人になりきることが出来る。
彼らから学べるものは何だろう…何もないかもしれない。ただ、老若男女問わず「心の避難先」として書店があり、共産主義に傾倒する店主ジョージの元で自由に暮らし、去って行く者たちがいる。

私が思ったのは、そんな「へんな本屋と人々」を丸ごと受け入れてしまえる、パリの自由さだったりする。
大きなホテルが土地を買収しようとしていても、この書店は経営を娘夫婦に引き継いで、いまだに健在なのだそうだ。そんな「自由」主義なフランスに、一歩足を踏み入れてみたくなる、そんな本だった。

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