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一瞬の恋(短編小説)

その日は雨だった。

ぼくは、雨の商店街を行きかう人の中に、その人をみつけた。

傘で隠れて鼻から上は見えなかったけど、通りを颯爽と歩いて行ったその人に惹かれた。

ぼくは、商店街のいりぐちにある、1階の露天の八百屋でバイトをしていた。

今日は雨だから、人どおりがまばらで、雨の中、わざわざ八百屋に足を止める人も少ない。

客足の少ない店番で、ぼくは時々ボーっとしていた。

正解には、いつお客さんが来てもいいように外を眺めて店番をしていたけど、意識は遠いとこにいて違うことを考えていた。

そんな風に、気を抜いていたぼくの目の前を、横切った女性がいた。彼女は八百屋の商品を見ながら止まる様子はない。しかし過ぎ去る刹那、一瞬口元だけ微笑んで、通り過ぎていった。

ぼくはその女性を無意識に目で追った。

笑っていた?
なんだろう。
ああ。

ぼくはすぐに正解がわかった。

店先には目と口を書いた大きなカボチャが置いてある。ハロウィンの展示だ。きっとそれに気づいたんだ。

彼女の顔は、傘で鼻から上が見えなかった。でも、微笑んだ口元が、ぼくにフックのかかる色気のある口元だった。

ぼくは、一瞬で心を奪われて、彼女の後ろ姿が見えなくなるまで目がはなせなかった。

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