読書:吹井賢『ソーシャルワーカー・二ノ瀬丞の報告書』(3/23読了)

心にじんわり灯るものがあった。
京都の小さな町で新米ソーシャルワーカーとして奮闘する二ノ瀬の、様々な案件や人々との関わりを描いた作品。

僕に何ができるだろう?――そう問い続ける彼の姿が焼き付いている。

同じ人間も同じ問題も存在しない。
持ちこまれた相談にただ対処するのではなく、話に耳を傾け、様子や状況に気を配り、その人にとっての幸せを考える。困り事を抱えた〝誰か〟を、手助けするのが仕事だから。

でも、二ノ瀬は言うんです。

 結局、僕達はあくまでも、手助け、、、をするだけで。
 その人の人生を選び、生きていけるのは、その人自身だけなのだ。

本文44ページ

本当にその人の力になれたかってことは分からない。けれど、それでも、手を差し伸べることを、どう手を差し伸べたらいいかを求め続ける二ノ瀬に、考えることが沢山ありました。

それに、彼自身も困難を抱えている面がある。
相談に乗ってもらった過去も、一言に救われた経験も持っている。だから二ノ瀬と相談者たちは重なり繋がっている部分があるし、巡り巡っていると感じるところもあったんです。

二ノ瀬が出会う案件や人は様々ですし、支援に関わる組織も職も方法もまた色々あって、知ることができて良かったなと。

そうそう、二ノ瀬は実に多くの書類を作成しているんです。決裁書やアセスメントシート等々。数枚に収まってしまい、保管期限が過ぎれば破棄されて存在しなくなる記録たち。
案件はきっと、記憶からも薄れていく。でも、そこに誰かが、その想いがあったことは忘れたくないなと感じた作品でした。


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