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欲望の果てに得るものなし「遺産相続ゲーム」

ミヒャエル・エンデの戯曲である。

劇の評価は散々だったらしい。エンデと言えば「ネバーエンディングストーリィ」や「モモ」といった児童文学作家として有名だ。そのエンデが戯曲を書いたことで話題になったようだが、大人しく子供向けの本を書いてろなどとほとんど罵声を浴びせられたくらいにまったく評価されなかったらしい。

エンデはこれを本にするにあたってあえて加筆修正をせずにそのまま書籍化した。やろうと思えばいくらでもできたが、当時の自分の考え方を尊重したかったと言っている。
 
ある富豪が死んだとかで、相続人たちが館に集まってくる。ところがその相続人たちは死んだ富豪がだれだか知らない。富豪の意図はわからないが、なんだか莫大な遺産を相続できるらしいぞという理由だけでノコノコとやってくるのだ。

そして代理人から遺書がそれぞれに手渡される。しかし受け取った遺書は断片だった。全員の断片を合わせれば完全な文章になるのだが、全員が自分の断片を開示することを拒否する。それぞれがそれぞれにもっともらしい理由をつけて、自分だけが正しく、他は欲にまみれて間違っていると決めつける。
 
欲に目がくらんだ人間たちの喜劇と悲劇が交錯して館は混沌の世界へと変貌していく。エンデは人間に警告したかった。際限のない欲望がもたらす地獄を演劇で語りたかったのだ。人間は、果たして我々は変わることができるのか。

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