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【第25回】県境を越えた地区防災計画【石川県加賀市三木地区・福井県あわら市吉崎地区】

質問 県境を越えてつくられた地区防災計画があるんですか。

概要

 ①地区防災計画制度では地区の実情に応じた地区の範囲の設定が可能。
 ②石川県加賀市吉崎地区及び福井県あわら市吉崎地区で県境を越えた防災活動を展開。
 ③従来の防災活動ではできなかった持続的・実効的な共助による防災活動。

解説

①地区防災計画制度では地域の実情に応じた地区の設定が可能。

 2013年に災害対策基本法が改正されて地区防災計画制度が創設され、この制度は2014年から施行されています。この2014年から3年間にわたり地区防災計画制度を全国展開するために、内閣府により地区防災計画モデル事業が実施されました。
 3年間で合計44地区で地区防災計画づくりが進められましたが、その中で、地区防災計画制度の地区の実情に応じて地区の範囲を柔軟に設定できるという特色をいかして、県境を越えて防災活動を展開する地区が出てきたことが注目を集めました。

②石川県加賀市三木地区及び福井県あわら市吉崎地区で県境を越えた防災活動を展開。

 注目を集めたのは、2014年度内閣府地区防災計画モデル事業のモデル地区であった石川県加賀市三木地区(吉崎町ほか6町会・人口約1600人・約620世帯)及び2015年度内閣府地区防災計画モデル事業のモデル地区であった福井県あわら市吉崎地区です。
 もともと両県に分かれているに二地区では、津波の浸水想定等が異なっていました。そのため、石川県側は津波に関する訓練を積極的に実施しているのに、福井県側ではそれほどでもなかったようです。しかし、津波が発生した際には、石川県側には避難に適当な場所がなかったこともあり、石川県側の住民が福井県側の小学校に避難できるように両地区の住民が話し合いをするようになりました。
 そして、内閣府が実施したモデル事業の中で、両地区が協力して避難計画を策定するようになり、地区防災計画づくりが実施されました。そして、両県の県境を越えた形でハザードマップが作成されたほか、合同でワークショップや避難訓練も開催されるようになりました。

「県境を越えて防災と地域活性化(石川県加賀市三木地区)」
『地区防災計画学会誌』第3号掲載記事(2015年3月)

③従来の防災活動ではできなかった持続的・実効的な共助による防災活動。

 通常は、市町村や都道府県が異なる地区同士で一緒に地区防災計画を作ったり、防災活動をすることは多くないと思われます。また、仮に一緒にやろうとしても、調整が容易でないことも多いでしょう。
 一方、上記の両県にわかれている二つのモデル地区は、もともと吉崎御坊の寺内町の中の地区であり、歴史的に関係が深く、現在も両地区を跨いだ形で吉崎御坊関係の史跡や関係施設が多数存在しています。そして、日頃から近所付き合いがあり、中学校等も県境を越えて通学することもあるそうです。そのような習慣や人間関係が基になって、このような県境を越えた地区防災計画づくりを実現することができました。
 もちろん、このような関係は、一朝一夕でできるものでもありませんし、このような地区防災計画づくりは、どこの地区でもできるわけではありません。しかし、地区防災計画づくりには、日頃の人間関係が反映され、従来の防災活動ではできなかった持続的・実効的な共助による防災活動を可能にしてくれる場合もあるという一つの例ではないかと思います。

文献
澤田雅浩,2016,「地区防災計画策定時の区域設定による効果発現の可能性に関する一考察―加賀市・あわら市吉崎地区における取組みを通じて」『地区防災計画学会誌』(6).

閑話

 地区防災計画学会の関係者による地区防災計画学の最新テキストがまもなく発売されます。多くの地区防災計画づくりの実例が、大学教員等によって紹介されています。上記の加賀市・あわら市の吉崎地区の取組についても紹介されています。
 本日からAmazonに情報が掲載されました。

室﨑益輝矢守克也西澤雅道金思穎 編著
地区防災計画学の基礎と実践』弘文堂(2022年3月7日発売)




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