見出し画像

イルカな息子は恋をする

ボクの息子の名前、それはルカ。空飛ぶイルカのハナシは読んでくれたかな?読んでくれたらルカの雄姿に感激するよ、きっと。

そんなルカも最近は思春期真っ只中。話しかけても返事もしないし、ご飯時にも上の空で、なんか様子が変なんだ。イルさんには分かるみたいで、きっと何か良い相手を見つけたんだなって、そう言ってた。余計なコト言わないでねって、30回くらい僕はイルさんに言われた。僕が何を言うんだろう?せいぜい僕が若かった頃のハナシをするだけなんだけど。でもダメみたい…

そんなルカ君が、めずらしく僕に話してきたんだ。丁度梅雨空が明けて、陽射しに夏の香りを感じるようになった、そんな時だ。
「ねえ、父さん。今度、父さんに紹介したいオトモダチがいるんだ。」
来た。思春期男子の登竜門、彼女問題。イルカだって例外じゃない。僕はうまく立ち回れるのだろうか。またイルさんのお世話になってしまうのだろうか。
「ああ、そうなんだ。どんな感じなの?」
声が上ずったのが、自分でもわかった…でもルカ君は気にもしていないようだ。
「泳ぐのがスゴク速いんだ、ボクと同じくらい。」
ってまた眼をキラキラさせてた。そんな娘、辺りにいたかな?僕は誰のことか想像もついていなかった。
「今度、この先の沖合で会うんだ。一緒に行かない?」
既に気合い負けしてた。気持ちが真っ直ぐなヤツには、そうそう勝てるもんじゃない。
「分かった。いいよ、一緒に行こうか。」
僕の言葉に、ルカは振り返ると嬉しそうに沖合へと泳いでいった。
僕はルカの泳ぎ去る背中をぼんやりと見つめていた。あの可愛かったルカが、もうすぐ大人になるのか…一抹の寂しさと嬉しさが混じり合って、僕の胸の中は複雑だった。

何日かして、僕はルカに誘われて約束だという沖合に泳ぎだしていた。辺りにはサカナの群れもまばらで、誰が相手なのか僕には不安しかなかったんだ。
「ねえ、父さん。来たよ。」
ルカの声に振り向くと、遠くにカタクチイワシの大群が泳ぐ姿が見えた。必死に泳ぐ様子から、何かに追い立てられているのが分かった。
「父さん、行くよ。」
ルカはそういうと小魚の群れの魚影の行く先を取り囲むように、群れの周りを時計方向に泳ぎだした。僕は何が何やら分からないままにルカの後に続いた。
イワシたちは後方から追われ、僕とルカに囲まれて、逃げ場もなく追い詰められていく。螺旋らせんを描くように時計方向に回りながら、ゆっくりとその幅が縮まっていった。

「父さん、この娘だよ。」
ルカの言葉に横を見ると、ルカの横に並ぶようにして泳ぐ姿が目に入った。この娘、キハダマグロじゃないか…僕が口を開く前に、ルカの声が響いた。
「今日は一緒にイワシパーティの日なんだ。父さんも着いてきてよ。」
ルカはそういうと、マグロ娘と共にイワシの群れを追い詰めながら水面へと近づいていった。

水面ではイワシの大群が水しぶきを上げながら飛び回っている。辺りはキハダマグロの大群が口を開けて次々とイワシを流し入れていた。ルカと娘さんは、マグロの魚群に混じって小イワシを次から次へと口に放り込んでいく。その様子に見とれながら、気付けば僕もイワシ漁に参加していた。僕もいつか父さんに聞いたことがある。僕らは時々、マグロたちと協力して小魚の群れを囲い込んで狩りをするんだって。僕はこれが初めてだったが、ルカは娘さんと仲良くなって参加させてもらっていたようだ。イワシの大群は次々と僕たちの胃内に収まった。僅かながら動きの俊敏な若いイワシが逃げおおせたが、大群は大方僕たちの豪華な食事のお供になっていた。

ひとしきり食事を終えると、ルカが娘さんを連れて僕のそばへと泳いできた。身の締まった、若い娘さんだ。僕は満腹感で脳が満たされる前に、気の利いた挨拶の言葉を思いつこうと頭をグルグルと回していた。さあ、第二ラウンドだ。こっちの方が大変かも。僕はもうじきやってくる4つのキラキラした目を前に、何て言おうか考え出していた。

(イラスト ふうちゃんさん)




この記事が参加している募集

子どもの成長記録

多様性を考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?