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ファイン系とデザイン系

美大には大きく分けて、日本画専攻、油画専攻、彫刻専攻などの「ファイン(純粋芸術)系」と視覚デザイン専攻(広告などの平面のデザイン)、製品デザイン専攻(製品などの立体物のデザイン)などの「デザイン系」があります。
 
この2つでは求められるデッサンは異なります。
デザイン系とファイン系で大きく違うのは、「人への伝え方」です。
 
デザイン系は、デザインするテーマや対象が明確であり、それを正確に相手に伝える必要があります。対して、ファイン系は「表現」をすることを一番の目的としており、相手にその表現の受け取り方を委ねていることが多いです。
 
デッサンの基本はどちらも同じです。
 
しかし、目的が変わる事でデッサンのたどり着く場所も異なります。
 
まず、「デザイン系」の求めるデッサン力について考察していきます。
例に多摩美術大学グラフィックデザイン学科のデッサン入試を見てみましょう。
 
多摩美術大学のHPに行けば、過去数年分の入試問題集を見ることが出来ます。
https://www.tamabi.ac.jp/admission/data/past.htm
 
多摩美のグラフィックデザイン学科では、デッサンで「観察力」「想像力」「忍耐力」が求められています。そして、毎年「手」をモチーフとした課題が出されています。
 

手のデッサン(モチーフ構成)

全ての人が日常的に目にする「手」という身近なモチーフは、多くの表情を持っておりモチーフやテーマと掛け合わせる事で無数のポーズを考察することが出来ます。
なんの変哲もない日常的なモチーフをどのように表現するか。弛まぬ観察と考察、そしてそれを表現する技術を、受験者から引き出そうという課題です。
そして、同一モチーフを扱う事で、受験者はより多くのアイデアを練らなければいけないというのもデザイン科入試の特徴と言える。同じ構図の手であっても、指の曲がり方、腕の見切れ方、手の角度のちょっとした違いで画面の見え方は変わります。そこを理解し、考察を重ね取り組むことで、デザインする力が養われていきます。
 
デザイン科を受ける受験生は、手というモチーフを画面にどう入れるかを考え、テーマをどのようにして相手に伝えるのか考えながら取り組むようにしましょう。
 
まとめ
・デザイン科のデッサンは「様々な視点から物事を見る観察力」「アイデアを視覚化するための想像力」「細部まで描き切る忍耐力」を問われている。
・同じモチーフのポーズを何度も熟考することで、構成力が上がり、デザインする力が養われる。つまり、指一本一本まで意識し構成することを求められる。
・上記の力を磨き、テーマやアイデアを的確に相手に伝えられるデッサン力が必要。
 
 
次に「ファイン系」で求められるデッサン力についての考察です。
 
多摩美術大学油画専攻入試2023
問題「身体を見て描きなさい」
「デッサンにおいては、基本的な描写の能力だけではなく物を見る力も同時に問う。〜身近な受験生自身の体をモチーフとして、観察力を活かしたデッサンのあり方を問うた。〜観察が深いレベルまで達しているか、誰も気がつかないようなユニークな視点で体が観察されているかどうかが採点のポイントとなる。無論、それがどのような描法で描かれているかも重要である。なんの疑いもなく形式的な描写ですむ問題ではなく、デッサンとはいかにあるべきか、あるいは身体とは何であるのかと問う姿勢こそが求められると言って過言ではない。結果として現れたデッサンのユニークさや表現力の有無が重要な採点ポイントである。規制のデッサン枠から外れたとしても、観察することや身体への深い洞察が窺われる作品は評価した。
 
2023年の問題は、デザイン科と同じく「自身の体」をモチーフとした課題でした。
しかし、合格作品を見てみるとデザイン科と全く異なることがわかります。
一体なぜこんなにも違うのでしょうか?
 
「出題の狙い」には、「どのような描法で描かれているか。」や「デッサンとはいかにあるべきか。」「身体とは何なのか」など、出題者が受験者にテーマや描き方を自由に問うていることが伺える。回答側は、「自身の表現」としてその問いに答えていく必要がある。さらに、終わりに「既成のデッサンの枠から外れたとしても〜評価した。」と書かれており、絵画のさらなる発展も同時に期待している。
 
要するに、自身で考え、自身で表現し切る力を問われているのです。
そこに、既成の答えはなく、常に進化し続ける芸術の可能性を見ているのでしょう。
 
確かな目でリアリズムに描き切るもよし、惹かれるそのポイントを掬い出し、自分のやり方で描くもよし、アイデアで真っ向勝負するもよし。しかし、ただ無為鉄砲に描くのではなく、デッサンの基礎を持ってして、表現に説得力を持たせなければならないのです。
 
まとめ
・「ファイン系」のデッサンは、基礎的な描写力はもちろんですが、物を独自の目線で観察する力やテーマを突き詰めて考え「自分の表現」としてアウトプットする力を求められている。
・既成の表現にとらわれず、対象を描く挑戦も評価される。
・自分の表現を考え、知り、アウトプットし続ける事で、自己の表現力は豊かになる。その基本は、目の前の対象をデッサンする事である。
 
 
いかがでしょうか。
今回は多摩美術大学のグラフィックデザイン専攻と油画専攻を例に考察しました。
 
大きく見て、デザイン系が「伝えること」、ファイン系が「表現すること」にそれぞれ重きを置いているのはどの大学でも共通しています。
しかし、大学や専攻によって少しづつ求められていることが異なるので、自分の受けたい大学や専攻の事をしっかりと調べて取り組むようにしてください。
 
ここまでありがとうございました。
 
描いて欲しいモチーフ、書いて欲しいテーマなどありましたらコメントでお待ちしています!


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