最近の記事
岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻(書誌データ)
ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(1812/1857。佐々木田鶴子抄訳、岩波少年文庫)全2分冊は、『子どもと家庭のおとぎ話集』第2版(1819)を中心に、初版(第1巻1812、第2巻1815)や最終第7版(1857)を参照しつつ、セレクトしたものです。 下巻にも、25篇のむかし話が収録されています。岩波少年文庫版では、合計50話が読めます。これは最終第7版のうち、「子どものための聖者伝」全10話を除く全200話の、4分の1の話数にあたります。 では、記事本体を
マガジン
記事
-
岩波少年文庫を全部読む。(146)回想の戦後東京、母を失った少年と小動物たち 舟崎克彦『雨の動物園 私の博物誌』
舟崎克彦の『雨の動物園 私の博物誌』(1974)は、少年時代を16篇の断章で振り返った回想録です。 1950年代の池袋 各断章は10-20頁。断章の題は「コジュケイ」「ウグイス」「ヒバリ」「カッコウ」「モズ」「ヤマガラ」「カルガモ」「十姉妹・錦華鳥」「エナガ」、半分以上が鳥の種類名です。これに「鳥かごの家族たち」というのが加わる。 それ以外の題名はというと、「ヒキガエル」「コウモリ」「トカゲとヤモリ」「犬」「モグラ」「リス」。すべて動物、それもほとんどが小動物ということ
有料100岩波少年文庫を全部読む。(145)これ以上なにか足してもダメ、引いてもダメ。奇蹟のようなバランスでもたらされたおとぎ話の美 メアリ・ド・モーガン『風の妖精たち』(抄)
メアリ・ド・モーガン『風の妖精たち』(岩波少年文庫)は、同名の短篇おとぎ話集(1900)から2篇を除く7篇を、収録順に訳したもの。訳者は矢川澄子です。 禁止と違反のセット 物語の世界は、禁止と違反と発覚と罰に満ちています。 禁止は違反の前フリに過ぎないと思えるほどです。 旧ソヴィエト連邦の民俗学者ウラジーミル・ヤコヴレヴィチ・プロップは、『昔話の形態学』(1928)で、ロシアの魔法民話の筋を構成する諸要素を分類しました。 これによれば、魔法民話の各話は、ごく限られた数の
有料100岩波少年文庫を全部読む。(144)社会の外から行動できるためには、悪人は社会の内部のものごとに通じていなければならない。 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ『きつねのライネケ』(抄)
中世、宮廷は裁判所でもあった 百獣の王ライオンのノーベルが廷臣を招集します。 そこに狐のライネケがいません。狼のイーゼグリムは、ライネケが妻の名誉を傷つけたと訴えます。犬のヴァッカーロース、猫のヒンツェ、兎のランペなど、ライネケにひどい目に合わされた連中が被害者の会を結成します。 ライネケの甥、狸のグリムバートがライネケを弁護しますが、雄鶏のヘニングは、ライネケに惨殺された雌鳥クラッツェフースの屍体を提示し、一気にライネケ告発の動きとなります。 王はライネケを呼び出すこ
有料100ヴァイオリンを弾きこなし英独仏羅と多言語を解しボクシングと柔術の心得もあるスーパーボーイ 岩波少年文庫を全部読む。(143) エリナー・H・ポーター『ぼく、デイヴィッド』
エリナー・ポーターの長篇小説『ぼく、デイヴィッド』(1916。中村妙子訳、岩波少年文庫) 10歳のデイヴィッド少年は、山腹を切り開いたところで、父とふたりだけの、心静かな生活を送っていました。 父が体調が悪化し、みるみる重病となり、谷へと降りなれけばなりません。 父はいまわの際に、デイヴィッドに大量の金貨を渡し、必要なときがくるまで隠しておくようにと言います。 父のために、デイヴィッドはヴァイオリンを弾き、農場主のシミアン・ホリーとその妻エレンに見つかります。 名字はま
ヴィクトリア時代を舞台とする乳脂肪分過多なファンタジー 岩波少年文庫を全部読む。(142) エリザベス・グージ『まぼろしの白馬』
1842年、首都からウェストカントリーへ エリザベス・グージ『まぼろしの白馬』(1946。石井桃子訳、岩波少年文庫)は、約100年前の初期ヴィクトリア時代を舞台とする、芳醇なファンタジー小説です。 1842年、ロンドン。赤毛でそばかすのあるマリア・メリウェザーは父をなくし、13歳で孤児となりました。 マリアは、食い意地の張ったスパニエルのウィギンズを連れて、家庭教師のジェイン・ヘリオトロープ先生に導かれ、ウェストカントリー(イングランド南西部)のシルヴァリーデュー村にあ
有料100『ゴリラーマン』的な階級闘争と、クリスマス・ストーリー 岩波少年文庫を全部読む。(141) エーリヒ・ケストナー『飛ぶ教室』
クリスマス前のギュムナジウム オーバーバイエルンの寄宿学校生たちの、クリスマス休暇前の短い期間を描いた小説『飛ぶ教室』(1933。池田香代子訳、岩波少年文庫)は、エーリヒ・ケストナーの代表作のひとつです。 メインとなる5人の5年生(14歳前後でしょうか)は、学校のクリスマスイヴェントにSF劇「飛ぶ教室」の上演を控えています。そのひとりひとりに気がかりがあり、事情があり、直面すべき問題があります。 5人のメインキャラ ヨナタン・〝ジョニー〟・トロッツは、アメリカ人(おそ
有料100-
岩波少年文庫を全部読む。(138)ケストナー描く女の戦い、そして美空ひばり エーリヒ・ケストナー『ふたりのロッテ』
この連載で毎度毎度熱く語ってしまうエーリヒ・ケストナー作品。『ふたりのロッテ』(1949。池田香代子訳、岩波少年文庫)は戦後の出版ですが、創案は映画のシノプシスとして、ナチス時代の1942年に書かれていたそうです。 ドイツ語圏の3つの国 この小説は戦後に刊行されたのですが、作中時間はなんとなく、ナチス政権獲得(1933)の直前のようにも見えます。どちらなんでしょうね。 戦前の一連の作品に見られた、長くて饒舌で自己言及的な序章こそありませんが、〈みんなはゼービュールを知って
有料100