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読書人間📚『忍ぶ川』三浦哲郎



『忍ぶ川』三浦哲郎

新潮文庫 
昭和35年「新潮」10月号掲載
昭和40年5月30日発行
令和2年5月25日 92刷
1961年、第44回 芥川賞受賞(作者、当時29歳)
1972年に映画化、また石井ふく子プロデューサーのもと、1961年〜ドラマ化(東芝日曜劇場)されている。

三浦 哲郎(みうら てつお) 1931年3月16日 〜2010年8月29日 79歳没。


『忍ぶ川』
とても素直な恋愛物語りです。

芥川賞選者の川端康成は「『忍ぶ川』は私小説だそうである。自分の結婚を素直に書いて受賞した、三浦氏は幸いだと思える」と述べていますが、私小説だと思い読んでいませんでした。ところどころ、まさか?と過ぎることはありましたが、感傷的でありながら全体に美しい文体。男女の間に流れる空気に一切の淀みを感じられません。解説の奥野健男さんも同じように感じられていました。「__これからどうなって行くかわからぬ体当たりの泥まみれの苦闘はない。過程のくるしみは描かれていない。すでに完了した静止の美の世界なのだ」
小説、文学として成立させているのです。『忍ぶ川』はわたしの予想とは違ったものでした。


ですが、この後に発表されるつづきの作品で、生い立ち、肉親の死、二人の貧困生活など、血の宿命におののく主人公の苦悩の日々を綴られています。特に、衝撃的だったのは、210ページ。

「 __ぬきがたいひとつの感情に悩まされてきた。羞恥である。私には、死の一種の恥だとしか、思われなかった。私はこれまでに、二人の姉を死によって、二人の兄を生きながらにしてうしなかったが、彼等の死、および不幸は、ことごとく羞恥の種であった」

死ぬことを自殺することだと思っていた主人公はそれを、恥だと感じていた。私小説とすれば、三浦哲郎さんは、そう生きた人であったとは、『忍ぶ川』の美しい愛の話からは、これもまた想像もできません。
三浦さんは書くことで「血」から逃れられたのでしょうか、消化できたのでしょうか。昔は大変だったのですねとひと言でまとめられません。今の日本も誰がどうなってもおかしくない時代、ずっしりとした気分に終えました。


『木馬の騎手 』(新潮文庫/絶版)の「メリー・ゴー・ラウンド」と言う作品がセンター試験に出たことがあり、とても良い作品とのことで読みたかったのですが残念ながら絶版。Kindleにはありますが、液晶画面では気分がのらなかったので、芥川賞受賞の『忍ぶ川』を読むことにしました。
やっぱり、『木馬の騎手』が気になりますね。またそのうち、古書店で探すでしょう。

最近の、泥まみれの苦闘、私小説と言えば、こだまさんの『夫のちんぽが入らない』こちらの作品がお薦めです。


カバー装画 水谷有里
解説 奥野健男(昭和40年5月、文芸評論家)
新潮文庫

映画『忍ぶ川』
監督   熊井啓 
原作  三浦哲郎
脚本   長谷部慶治 、熊井啓   

公開  1972年5月25日
製作会社 東宝=俳優座
配給 東宝
出演  栗原小巻 .加藤剛 .永田靖 .瀧花久子 .可知靖之 . 井川比佐志 .山口果林 .片山まゆみ .岩崎加根子 .信欣三 .阿部百合子 .鹿野浩四郎 .大西加代子 .木村俊恵 .滝田裕介 

加藤剛さん!!モノクロ!観たいです! 加藤剛さんの息子さん、役者の夏原 諒さんと時代劇の舞台をご一緒させて頂いた事があるのですが、『大岡越前』が大好きだったので、お見かけした際は大興奮でした。夏原さんは音大出身でサックスを吹かれます。自然体で素敵な役者さんですよ。

🌝声、発声、機能を考える
ボイス・ボーカルレッスン/東京都 
音楽療法(医療行為は行わない)の観点からオーラルフレイル、口腔機能、老化防止を意識した呼吸法、発声のレッスンも行います。

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