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子ども同士だからって、合うわけじゃないのに

「子どもは子ども同士で、遊んでいてね」

そういって縁側に取り残された。

5歳か、6歳か。

縁側の向こうには、知らない同い年くらいの女の子。

そこは知らない人の家。

母は友達と久しぶりに、ゆっくりおしゃべりをしたかったのだろう。

私が「ママ・・・」と寄っていっても「あっちで遊んでいなさい、ほら」と邪険にされた。

私は仕方なく縁側に座り、そこに置かれていたおせんべいを食べた。

なるべく音がしないように・・・

でも、ポリ、ポリ、と、鳴る。

自分が食いしん坊みたいで、悲しくて。

でも所在なくて、またそうっと手を伸ばして、ポリ・・・。

向こうに座っている女の子も、黙ったまま。

私は女の子の、長い髪の毛を見た。

うらやましかった。

私はいつもおかっぱだった。

「伸ばしたい」というと、母が「これくらいが一番女の子はかわいいのよ」と、繰り返した。

たぶん、手入れが楽だったのだろう。

私の髪は、ねこっ毛だったから。


何か、作っているみたいだけど、なんだか、わからない。

見たいけれど、恥ずかしくて見に行けなかった。

なんていったらいいか、わからなくて。

「それ、なあに?」と聞くとバカにされるかもなんて、考えて。

お菓子の残りが少なくなったころ、女の子はスイッといなくなった。

私はがっかりしたようなほっとしたような気分になって、思い切り、おせんべいをかんでみた。

カリッといい音がした。

20211029塩せんべい (2)


少ししたら、女の子は絵本を持ってきた。

少しだけ、絵本をこちらに向けて、見ている。

「あれ、シンデレラ・・・?」

思わず声が出た。

うちにあるシンデレラの絵本と似ていた。

かぼちゃの馬車、お姫様、魔法使い。

「知っているの?」と女の子。

「うん。でもうちのとちょっと、違う」

「ふうん。どんななの?」

「ドレスの色がね、うちのは白っぽくて、飾りがキラキラしてて・・・
でも、これも、すごくかわいい」

私は絵本のお姫様をのぞき込んだ。

家にある「シンデレラ」の絵本のドレスが大好きで、私は何度も眺め、絵に描いていた。

白っぽいドレスに水色のスカートがかぶさって、ネックレスのような飾りがスカートを飾っていた。

その絵本のドレスはピンク色で、もっとふんわりしていた。

「このドレスのどこが好き?」と聞かれて、二人で順にあげていった。

ようやく話せたころ、

「さあ、帰りましょう」と母が来た。

がっかりした。

もっと、話してみたかったのに。


名前も憶えていない。

大人ってどうして「子ども同士」ならすぐ、仲良くなれると思うんだろう。

話きっかけも与えてないで。


なんて、乱暴なんだろう。

自分の都合で、来て、帰る。


でも、母になんていえばいいのか、わからなかった。


だから息子には、知らない子ども同士だけには、しないようにした。

息子は、合う子と合わない子を、自分で見分けていたようだった。


合う、合わないって、難しい。

大人だってそうなのだから。

子どもだからって、合うわけじゃ、ないんだよ。

今になって、つぶやく。


でも、大人同士で話したかった母の気持ちも、今はわかる。

恨んでは、いないけど。


もう少し早く勇気を出せばよかったのか。

ひとりでおせんべいを食べながら、ほんの時おり、思い出す。


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※イラストはKuroさんからお借りしました。ありがとうございます。

ありがとう森バージョン








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