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モチベーションを左右するのはコミュニティメンバーの自律性・有能性・関係性

コミューンコミュニティラボがお届けするnoteマガジン。今回はコミュニティメンバーのモチベーションについての研究をお届けします!

コミュニティでメンバーが行動するとき、何らかのモチベーションが働いています。運営者がメンバーに直接声をかけたり先頭を切って行動してもなかなかメンバーがアクションしないケースがコミュニティではよくあります。それはもしかしたらモチベーションの欠如が原因かもしれません。

今回の研究では、そんなモチベーションを高める要素を明らかにし、コミュニティでアクティブになるメンバーを増やして盛り上げるための法則が示唆されました。

このマガジンでご紹介する研究成果も今回で第3弾。メンバーがアクティブになるために必要な要素は何なのか。コミュニティの面白さや可能性を感じながらお読みいただけたら嬉しいです!




モチベーションは3段階ある

今回の研究の足場にしたのは自己決定理論(Self Determination Theory)です。以下SDTと表記します。SDTは、1985年にアメリカの心理学者であるエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱したモチベーションにまつわる理論です。

SDTにおいて、モチベーション(動機付け)は大きく3つの段階に分けられるとされています。

  • 無動機(amotivation):モチベーションのない状態。自分の意思で行動しておらず、自身の能力や価値を低く評価してしまう。

  • 外発的動機づけ(extrinsic motivation):外部からの報酬がモチベーションとなり行動する状態。金銭に限らずモノや言葉など多様なものが報酬になり得る。

  • 内発的動機づけ(intrinsic motivation):外部からの報酬なしで行動するモチベーションの高い状態。多少の手間やコストを省みず自発的に行動する。

コミュニティにおいては外発的動機づけのメンバーと内発的動機づけのメンバーを分けて考えることが重要です。前者にはプレゼントが当たるキャンペーンを展開するとモチベーションが上がりますが、後者にはワクワク感や共感につながるメッセージを伝えるほうが効果的です。

また、せっかく内発的動機づけで動いている人に外部から報酬を与えることによって内発的動機付けが弱まり外発的動機づけで動くようになってしまうことがあります。絵を描いた子どもにお小遣いをあげることで、心の内側から湧いてくる絵を描く楽しさ(内発的動機付け)を外部からの報酬(外発的動機づけ)で打ち消してしまうことに似ています。その子どもはお小遣いをもらえなくなったら絵を描かなくなってしまうでしょう。

モチベーションの基礎編はここまでにしましょう。ここから先は、内発的動機づけによる高いモチベーションはどういったときに湧いてくるのかを考えていきます。

モチベーションの3段階


モチベーションを高める3要素

先述のSDTでは、内発的動機づけによる高いモチベーションは以下の3つの心理的欲求が満たされているときに発生する、とされています。

  • 自律性(Autonomy):自分自身に権限があり、自分のコントロールが可能である、主体的に行動できる状況が重要。例えば、上司に全てをコントロールされて本人に何の権限もない部下は自律性が満たされない。

  • 有能性(Competence):自分自身には能力があると信じられる状況が重要。自分は人の役に立てないという考えは有能性の低さを表し、逆に人の役に立っていると感じられる状況は有能性の向上につながる。

  • 関係性(Relatedness):周囲から興味を持たれていると感じることができ、人との関係性を築きたいという思いを持っている状況。周囲から注目や反応がないとき、関係性の欲求は満たされない。

では、この3つの心理的欲求と高いモチベーションの関係性は、コミュニティのなかでも成立しているのでしょうか?言い換えれば、SDTは現代のコミュニティでも成り立つのでしょうか?こうした分析をするために、コミュニティメンバーを3つの層に分けてみます。

モチベーションを高める3要素


生産層・貢献層・消費層に分けて分析

コミュニティを定量的に分析するためには、メンバーの分類が欠かせません。コミュニティ内のアクションに応じて3つの層に分類してみましょう。

①生産層(モチベーション:高)

モチベーションが最も高いメンバーが属する層。自らコンテンツを生み出し、他のメンバーに対して影響力を持つ。今回の分析ではある期間の月単位で集計したときに「投稿数が上位40%」「投稿に受けたリアクションが上位50%」「コメントやリアクションをした数が上位50%」のメンバーをこの層に分類しました。

②貢献層(モチベーション:中)

モチベーションが中程度のメンバーが属する層。自らコンテンツを生み出したりするものの、生産層に比べてコミュニティを盛り上げていく熱量は低め。今回の分析では、生産層と後述する消費層のどちらにも当てはまらないメンバーをこの層に分類しました。

③消費層(モチベーション:低)

モチベーションが低めのメンバーが属する層。目的の情報を得るためにコミュニティーに参加し、能動的なアクティビティはない。今回の分析ではある期間の月単位で集計したときに「投稿数がゼロ」「投稿に受けたリアクションが下位10%」「コメントやリアクションをした数が下位10%」のメンバーをこの層に分類しました。

※分類の仕方は恣意性が高く様々な切り口が存在します。今回は「仮にこういう分類をしたらどうなるか」を試した実験的な取り組みです。

モチベーションの3層


モチベーションの3層と3要素の関係

いよいよ本題です。モチベーションの3層は、モチベーションを高める心理的欲求の3要素と関係があるのでしょうか?

この仮説を検証するには、「生産層のメンバーには3要素(自律性・有能性・関係性)が揃っている」「消費層のメンバーには3要素のうち欠けているものがある」といったことが示ればいいでしょう。

心理的欲求を直接定量化することはできないので、定量的なデータだけでなく定性的なデータを用いる必要があります。

幸い、コミューンコミュニティラボの母体であるコミューン社では定期にコミュニティメンバーに対するインタビューを行っており、そのテキストデータを定性データとして活用することができました。

インタビューの発言内容から自律性・有能性・関係性に関わる箇所を抽出したところ、実際に生産層のメンバーには3要素(自律性・有能性・関係性)が揃っている傾向がありました。

では具体的にコミュニティにおいてどんな状況が自律性・有能性・関係性を高めていたのでしょうか。社外秘な情報を含むため抽象化してお伝えします。

①自律性が高いメンバーの状況

コミュニティ(特にオンラインコミュニティ)では元から投稿やコメントに制限がないケースが多く、自分の意思で行動ができるため一定の自律性は元々担保されている。しかし、実際にいざ投稿をするとなると心理的なハードルがある。この心理的なハードルを乗り越えると自律性を発揮でき、アクティブになる様子が確認されました。例えば、ダイエットコミュニティーの中で急にアクティブになったメンバーAさん。Aさんはある時期から食事に野菜を多く取り入れ始めたことで、投稿に添付する写真がカラフルになり見栄えがよくなりました。いい写真が撮れるようになったことで投稿への心理的なハードルが下がりやってみようとモチベーションが上がったそうです。定量データからも貢献層から生産層へのシフトが見られました。

②有能性が高いメンバーの状況

自分の投稿にポジティブなリアクションやコメントがつくことで嬉しくなる、という声がありました。自分は価値がある、自分はこのコミュニティの人の役に立っているといった認識が有能性の向上につながっているようです。モチベーションも向上しアクティブになり、定量データからも消費層から貢献層、貢献層から生産層へのシフトが見られました。

③関係性が高いメンバーの状況

モチベーションの3要素のなかでも、影響がとくに大きいのが関係性でした。多くの定性データがコミュニティ内での関係性構築によるモチベーションの向上を示しており、定量データからもその後にアクティブになる傾向が見られました。特に貢献層から生産層へのシフトにはこの関係性が重要です。

実際の定量×定性分析の様子


こうして消費層から貢献層へ、貢献層から生産層へのシフトには心理的欲求の3要素が重要であることが分かりましたが、逆の現象も確認できました。生産層から貢献層へ、貢献層から消費層へシフトするとき、3要素のうちいずれかが失われてしまっているケースが多いのです。継続的に3要素を維持する取り組みが必要であることが分かります。


研究成果のまとめ

コミュニティにおけるメンバーのモチベーションを消費層・貢献層・生産層の3層に分けたとき、その層と層のあいだをシフトするのは心理的欲求である自律性・有能性・関係性が満たされたときであることが分かりました。これは以前から提唱されている自己決定理論(Self Determination Theory)が現代のオンラインコミュニティにも当てはまることを示しています。

3層のなかでもモチベーションが最も高い生産層は他のユーザーへの影響力があるため、コミュニティ全体の熱量の向上に重要な役割を果たしています。そのため、消費層が貢献層にシフトし、さらに貢献層が生産層にシフトするようなコミュニティの仕組みや運営の工夫が必要になってきます。

以前の研究成果「『主役の移り変わり』がコミュニティ成長のカギ」ではコミュニティマネージャーが初期にアクティブであり、そこから他のメンバーに主役の座を渡していくことでコミュニティが成長することが示唆されました。初期のコミュニティマネージャーのアクティビティは、見本を示すことでメンバーの心理的ハードルを取り払い「自律性」を高めているのかもしれません。また、コミュニティマネージャーがコメントしたりリアクションすることで「有能性」を感じられるメンバーもいるでしょう。そしてコミュニティマネージャーが日々コミュニティに登場することが、メンバーにとっては「関係性」として感じられる可能性もあります。

総じて、コミュニティマネージャーはメンバーのモチベーション(の3要素)を高めるために特に初期にアクティブである必要がある、と言うことができそうです。つまり、今回の研究成果は以前のものとも大きな齟齬はなく、一貫した結果が得られたと言えるでしょう。


この研究成果の活かし方

コミュニティメンバーを3層に分けたことで、モチベーションの高さに応じた「層別アプローチ」を検討することができます。消費層=無動機、貢献層=外的動機付け、生産層=内的動機付け、と仮定すれば、貢献層には外部からの報酬を提供し、生産層には感情や共感に訴える、という感じでしょうか。

また、別の研究成果である「オンボーディングの8パターン」においても、自律性・有能性・関係性の3要素を高めるものを優先して実施するなど、コミュニティマネージメントのブラッシュアップにも活かせるはずです。

今回の研究成果を通じて、コミュニティメンバーのモチベーションに対する解像度を高めることができました。コミュニティに携わるみなさんもぜひ、ご自身のコミュニティをモチベーションという切り口で眺めてみてください。新しい発見があるかもしれません!

今回の分析はコミューン株式会社で学生インターンをしている福田夕依さんが主導してくださいました!ありがとうございました!



この研究について詳細が気になる方や、コミューンコミュニティラボとの共同研究にご興味のある方は以下のサイトからお気軽にどうぞ。

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