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自選短歌「深海の夢」

君といた記憶に潜る深海で
溺れぬように泳がぬように

毎日が漂うだけの夜の海
夢の波間に星を仰いで

波風にさらされたのは息継ぎを
諦めらきれず手を伸ばすから

月明かり滲む海原に海月(くらげ)が
ゆらりゆれてるきらりとひかり

立ちどまり動けないまま若さだけ
絡めとられる浦島太郎

シーラカンス「本当」のこと
知り得たかい 心の海底遺跡で君は

ゆるやかに呼吸を止めておだやかに
泡(あぶく)となってやがて消えゆく

生温い羊水だろうこの闇は
母なる海で生まれ変わろう

天国にいちばん近いその場所に
流れつく頃 夢醒め冷めて

大切な今を感じるその隙に
指間の隙から今がこぼれる

掌を添えればすくえた水のよう
掴むのでなく包めたのなら

安直な純粋さだけ伴って
守りたかった日々がふやける

広さより深さで愛を紐解けば
愛は測れはしないよと海

悲しみも水に流せば海となり
雨に変わりてまた降り注ぐ

水を得た冷たさを得たこのからだ
ままならぬ物語を泳ぐ

十月も途方のない深海でした
あなたは光を見ていてほしい

寂しいはあなたのいない海だから
やがて水面に透き通る朝

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