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ナイキをつくった男|SHOE DOG

 なんども読み返したくなる本に出会うことがある。僕の場合は大抵、小説に多い。創作された世界や、事実に基づいた限りなくリアルに近いフィクションの世界への没入感が心地いいからだ。しかし、時折、現実に存在する人物を描いた本(自伝もの)に惹きこまれることがある。興奮と心地よい読後感、その余韻の熱が自分の中に宿る一冊を紹介したい。あの「ナイキ」創業者、フィル・ナイトの半生を描いた一冊、「SHOE DOG」だ。

 本書の一番の魅力は、巷の押し付けがましい自己啓発本やサクセスストーリーと違い、NIKE創業者であるフィル・ナイトと仲間たちのダサくて暑苦しくて執念深くて情けなくなるほどの失敗の連続の半生を、どこまでも自虐的に振り返っていることだ。失敗も成功も苦難も快楽もあるけれど、安定だけが見当たらない。

 NIKEの歴史に日本という国が、かなり重要な関与していた衝撃の事実を知っている人はそう多くないと思う。フィル・ナイトという、海外の若き起業家の目線で読む、当時の日本人と日本企業の雰囲気はとても興味深い。そして、フィルナイトと日本企業の間に芽生えた熱烈な”絆”に胸が熱くなるのは僕だけではないはず。読み進むに連れて、ページをめくる手がふるえた経験は初めてだった。

 スポーツやNIKEファンでなくとも、きっと本書には引き込まれるはずだ。なぜなら、24歳のアメリカの若者が無謀にもたった一人で日本のオニツカ(現・アシックス)社に押しかけ、アメリカでの販売許可を勢いだけで勝ち取り(自分の会社もないのにハッタリかまして説得してしまう)、その後の壮絶すぎる人生を歩んでいく姿は「刺激」に満ち溢れているからだ。

 いわゆる成功者の多くが抱かれるイメージ=派手、強欲、喧騒と、内部から覗き見た時の実状=孤独、不安、後悔。この大きすぎるギャップを没入感たっぷりに体感できることこそが、本書の最大の醍醐味と言えるだろう。

 いま、何かに夢中になっている人、闘っている人には「声援(エール)」を、何も手につかない、やる気が起きない人には「灯火(ともしび)」を与えてくれる一冊。世界最高のブランドは、清々しいほど、汗にまみれて誕生したのだ。

ナイキ②

ひとこと)不要不急の外出を控えている昨今、運動不足が気になります。自由に外出して日を浴びながら運動できるのは幸せなことですね。外で走ることが厳しいなら、ぜひ本書で心に汗をかきましょう。

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