タランティーノも大人になった?【ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの感想】
映画の大半を自宅で観ている自分ではあるが、タランティーノ作品は話が別だ。
「何が何でも映画館で観たいよね」ってことで、同じくタランティーノ大好きな友人と一緒に、新宿のバルト9にて鑑賞。ヤロウ2人で映画観るなんて、いつ以来の事だろう。
バルト9はお初な映画館な気がするが、平日17:30~19:55の間に開始する通常作品については【夕方割】ってものがあって、1300円で観れた。良い仕組みだ。
感じたこと(ネタバレなし)
私はあらすじも読んでいないし、予告編も見てないし、誰かのレビューもチェックしていない状態で、本編を見た。
だいたいの映画の場合、中身をまったく知らないってことが良い方向に働くことが多いと私は思っている。
しかし、この映画についてはどうだろう。
あからさまにベースとなる実際の話が存在しており、そのままの役名で登場するストーリーゆえ、最低限のあらすじと事実は知っておいたうえで見たほうが細かいところまで楽しめるのは間違いない。
誰かに尋ねられたら、その旨の助言をするのが親切かなと。
しかし、私はそれでも充分に楽しめた。2時間40分を超える長尺ではあるが、まったくもって長く感じなかった。
ベースとなる話を知らないがために、本屋のシーンや映画館のシーンなど、「なんだこれは?」って思う箇所はあるにはあった。それでも、そのシーンが冗長だと思うような長さにはなっていないので中だるみはない。ただ、「あぁ、このシーンはタランティーノは何が撮りたいんだろう」って思考が空回りして監督の意向が汲めなかったことが今となってはちょっと悔しくはある。
この映画が初めてのタランティーノ作品だとしても、それなりには楽しめるとは思うが、やはり、今までのタランティーノ作品をそれなりに観ていて彼の好みがわかっている人のほうが楽しめるだろう。
さらにいうならば、自分は残念ながら当てはまらないが、この映画の時代背景となっている60年代後半のアメリカの状況やカルチャーを体感している人だったらベストだろう。
自分にとってこの映画を楽しめた大きいポイントは
1.主演2人が少し衰えつつも存在感をビンビン発しているところ
2.ストーリー展開の緊張と緩和の絶妙のバランス
に集約される。
1.については、ディカプリオの実年齢は今年で45歳、ブラピにいたっては12月で56歳(!?)になる。
役柄的にもそうだが、彼らに20代から30代前半のような全盛期感はない。しかし、それでいながら、彼らが映る絵の様になること。
「パルプフィクション」ではトラボルタとサミュエル・L・ジャクソンにダサいTシャツ姿をさせたように、本作でもタランティーノはディカプリオとブラピに対して、スターとして持ち上げられ続けるような役は与えない。人間味がある描き方をしてくれる。
それが良くって、2人のどちらに対しても感情移入できてしまう。微妙に衰えてもいるキャラクターだから、ちょっと上から目線で見れてしまうってのもミソ。要は観客が気持ち良く見れる設定になってるってワケ。
もう1つのポイントである、"ストーリー展開の緊張と緩和"だが、そもそもタランティーノ映画を何作か見れば、彼の作品はバイオレンスが溢れているってことは誰でもわかる。
だから、映画の冒頭から多くの観客は激しいシーンへの心づもりをしているし、本作に限らないが、平和なシーンが続くとそろそろガツーンとキツイの来るよーと心の準備をしながら見てしまう。
本作は、その"緩和"シーンが他の作品に比べると長めだ。しかし、観客はシーンと一緒に"緩和"した気持ちにはなれず、そのうち来るだろう"緊張"シーンに備えて引っ張られ続ける。この具合が見事。このバランスは、タランティーノも苦心したのではないかと勝手に想像した。
もちろん、この2つ以外にも楽しめる要素は散りばめられている。子役の子を含め魅力的な女優陣だったり、音楽の使い方だったり、ブラピがキャデラックを運転する様だったり、ディカプリオ邸の内装だったり、犬の缶詰だったり、クライマックスのもろもろのアクションだったり。
しかし、これらの要素は、なんというか、世界各国に数多く存在するタランティーノフリークが期待しているものを、ちゃーーーんとタランティーノがくみ取って、「お前ら、これが観たいんだろ」って形にしてくれたものって気がして、めっちゃ心地良くはあるが、驚きは少なめだったりするんだ。
自分が撮りたいものを撮るってのがタランティーノの基本だとは思うが、この映画では、観客が何に喜ぶかを考えて作られていて、変に期待を裏切ろうとしていないなと感じた。そこに、タランティーノも大人になったのかなと感じざるをえなかった。
ただ、それでも全然問題なし。
驚きが少なかろうが、めっちゃ気持ち良くさせていただいた我々2人のタランティーノ談義は、新宿の屋台で気持ち良い夜風を浴びながら、深夜まで続いたのであった。
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