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日本へようこそ! 私の2週間のインバウンドツアーガイド


大好きな友人が、はるばるヨーロッパからやってきた!

成田にて。Welcome to Japan!!!

ウクライナ生まれベラルーシ育ち、今はコペンハーゲンに住んでいるAllaと、彼女とはベラルーシ時代からの長い付き合いであるパートナーのVit。

ふたりが長旅を経て初めての日本、初めてのアジアに来てくれたのが、2023年5月31日。そこから4年前の2019年の春、私はアイルランドのダブリンでAllaに出会った。


彼女は当時、ダブリンでファッションデザイナーとして活動していたのだけれど、語学留学生として1ヶ月だけそこに滞在していた私に特別なジャケットを仕立ててくれた上に、母国のこと、将来のこと、環境や社会の諸問題──それはもう、沢山のことを教えてくれた。それが私の人生に大きすぎる影響を与えた……というのは色んなところで書いているので割愛するとして、彼女にはいつか日本に行きたい、という小さな夢があり、当時の私はそのことをこう書いている。

 彼女には自身の哲学があり、内気ながらもとても物知りで、思慮深い女性だった。そんなAllaのアトリエの本棚に、日本の美意識についての書籍があったので、少し見せてもらった。美しい本だった。

ページをめくると、浮世絵や、漆、茶道に華道。絹や藍染の美しさに、龍安寺の枯山水。金継ぎや侘び寂びなどの、時の経過すら慈しむ精神性──…。

こうしたものを見ると、嬉しさ3割、不甲斐なさ7割……といった、なんともいえない気持ちになる。だって、こうした日本古来の美意識を今の日本で堪能するためには、かなり計画的に行動しなければいけない。「日本の美は、引き算の美」だと言われても、街中は足し算で溢れかえっている。それが悪いという話でないのだが。

「ここじゃない世界に行きたかった アイルランド紀行」より


その「いつか」が、ようやく実現することになった2023年の初夏。あまりにも多くのことがあった4年を経て最愛の友人と再会できることが心から楽しみではあったのだけど、同時に不安も大きかった。彼女がずっと憧れを抱いていた極東にある島国は、本当に理想の「美しい国」なのだろうか、と。


──


2023年5月31日は快晴、夏のような蒸し暑さ。チェーン居酒屋、カラオケ、パンダ、メイドカフェ……混沌とした看板群を横目に見ながら、上野駅でスカイライナーに乗り換え、成田空港へ向かった。

国際線の到着ゲート前で待機している間、2年も海外に出ていない私の英語力は大丈夫やろか……最初になんて言えばええんや……っていうか入管めっちゃ混んでるよな……と悶々とした気持ちばかりが膨らんでいく。そうして待ち続けること2時間20分、ようやっと知っている顔が出てきた瞬間、日本に、大好きなふたりが、いる!!!! という嬉しさで頭よりも先に感情が動いて、心配をぶっ飛ばす程度には言葉が溢れた。

事前に買っておいた日本滞在用のSIMカードを渡して、スカイライナーで上野まで。街はすっかり暗くなっていたのだけれど、そこで初めて日本の街並みを見た二人はネオンの多さにさっそく興奮していて、あぁ、そうかこの景観も面白く写るのか……と驚いた。私にとっては見慣れた景色を、本当に珍しそうに、タクシーの車窓からずっと眺め続ける二人。

これから2週間のホームとなる私の部屋に荷物を置いて、ひとまず腹ごしらえをしようと遅い時間まで営業している近所の居酒屋さんへ。ご近所さんしか来ないような、家庭料理を出してくれる小さな店だ。お座敷に通してもらって、英語の得意ではない店主と、酒盗ってなんだっけ、いぶりがっこってなんて言えば……と相談しながらの注文。

「日本での初めての食事、めっちゃ普段遣いの店にしちゃったけど…」と言う私に、「あなたとっての普通は、僕らにはちっとも普通じゃない!」と目に映る全てのものに歓喜する二人。

ちなみに、「おしぼりでーす」と渡されたそれを見ながら、Allaが「オシボリ……って、絞り染めの、シボリ?」と私に尋ねてきた。彼女は絞り染めをしたことがあるとのこと。彼女は本当に、なんでも注意深くよく聞き、よく見ている。そこから2週間。AllaとVitとの日本旅行が始まった。

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ふたりの「やりたいことリスト」の中にあったのは、温泉、寿司、包丁を買う、美術館に行く、工芸に触れる……などなど。そこに私がずっと行きたかった場所をくっつけて、訪日外国人が利用できるJapan rail passを駆使しながら巡ったのは湯河原、熱海、大阪、京都、倉敷、尾道、姫路、そして東京。あまりにも沢山の瞬間がある中で、選抜した写真たちと思い出を添えて紹介します。


湯河原、熱海

湯河原惣湯


まずは疲れを取るためにも温泉へ。雨の中、万葉公園の中にある湯河原惣湯に向かう。

ここはご飯が美味しい……という噂に違わず。奇をてらっていない、丁寧に作られた和食。

貸切露天風呂。ずっと入っていられる、ぬるめの湯加減。

屋根のあるお風呂もありますよ


温泉で身体をふやかし、食事で舌を喜ばせて、作家さんの展示も楽しんで、5時間滞在して6,500円。東京から日帰りで行くにもちょうどいい。ただ男湯、女湯のサインが「男」「女」の漢字のみで、非日本語話者にはさっぱりわからなかった故に「ここは女湯だから入らないよう気をつけて!」とVitに念を押しつつ、我々は女湯でずっとお喋り。



とはいえ、モダンじゃない温泉にも入って欲しい……と、夜は熱海の古民家宿へ。素泊まりの気軽なゲストハウス。

人生はじめての日本家屋、ってどんな感覚なんだろう
嵐に見舞われ濡れた服を乾かす
貸切露天風呂、私にはちょうど良かったけどふたりには熱かったみたい



湖心𠅘

熱海に行きたかった理由は、ずっと行きたかった古道具や骨董品のギャラリー、湖心𠅘があったから。

私が美意識の先生……とずっとSNSで焦がれて見ていたオーナーさんと初対面。彼女が淹れてくださる中国茶も美味しい。

Allaは江戸時代の酒瓶を、私は金継ぎされた豆皿を購入。

https://www.instagram.com/koshintei/


MOA美術館


本当は熱海港で海釣りをしたかったのだけど、天候により予定変更。湖心𠅘のオーナーさんに「敷地内に再現された光琳屋敷が素晴らしいですよ」と聞いて、MOA美術館へ。

言葉を失うほどに美しい収蔵作品や建造物と、この美術館の成り立ちを思いながら複雑な気持ちに。美しく見える景色の裏側までもが、美しいとは限らない。


大阪

万博記念公園

「ひかり」に揺られてのんびり西へ。地元、大阪北摂にある万博記念公園、実は入ったことがなかった日本庭園。

竹林を切り開いて出来た私の故郷……に残る竹林。

万博記念公園内にある大阪日本民藝館では、ちょうど絞り染めの展覧会が開催中。

一つひとつの絞り染めの作品を前に、Allaが染め方を解説してくれる。ただしキャプションが日本語のみで、そこだけ私が翻訳担当。

何千回、いや何万回と見たであろう太陽の塔、初めてその中に。

そしてこの日の宿は……うちの実家。

どこでも頭がついちゃうね

見慣れた実家の置物も、ふたりが見ると日本文化。

和歌山の港町で育った祖母。96歳になった今となっては、つい1分前の出来事さえ忘れてしまうのだけれど、二人を見るなり「Welcome!!So tall!!!(背が高い!)」と英語が出てきた。和歌山の港町で育ち、戦後に米軍の人と沢山接していたころの記憶は今も健在。

「どうして現代の日本人が着物をあまり着ていないか、その理由がわかるよ」と伝えてからの、着物体験。

 「こ、こんなに巻くの?」をこの後沢山…
夏の着物、とても似合ってた
いつも正座してくれるふたり

京都


私は大阪の実家に留まり、二人だけでしばらく京都へ。「この通りを歩くと楽しいよ」と地図に沢山の線を引いて渡しつつ……。

Suicaでバスまでマスターしてはった

後から聞けば、河原町二条の香雪軒で筆を買い、寺町の古着屋シカゴでアンティーク着物を買い、丹波口の北川釣具店で釣具を買い……日本人でも驚くほど上手に買い物をしていた二人。DeepLとGoogle翻訳を駆使しながら、すっかり日本での移動も買い物もお手の物。

広島、尾道


新大阪で合流して、新幹線「さくら」に乗って福山で乗り換え、尾道へ。

ここで私の大学時代からの友人、上野なつみちゃんも合流。

階段のある景色が美しい

水尾之路


「尾道のおすすめ、ありますか?」とTwitterで尋ねたら、「塩谷さんは絶対好き」と何人もの方から言われたカフェ、水尾之路……いや、好きでした。わかってらっしゃる!

宿泊施設も併設とのことで、次回は泊まりたいな


曇り空の尾道を歩きながら、ダブリンを思い出すね、と5年前の記憶が重なる。

Allaはねこが大好き

log

そして尾道での宿は、log。

ハタノワタルさんの和紙が全面に、繭の中に埋もれるような寝室。

もうすぐ、お庭にサウナが出来るのだとか。

彼女の母国の色、ウクライナカラーのお部屋


千光寺山

ケーブルカーに乗って、千光寺山へ。

出張のついで? 景色が良いところは登りたくなりますよね


ライオンキングごっこ
海の向こうに連なる、しまなみ海道


拉麺 またたび

logでおすすめされたラーメン屋さんに行き、そこでたまたま会った香港出身のお兄ちゃんに「向島にチャリで行くべき!」と熱弁され……

BETTER BICYCLES

促されるがまま向かったベターバイスクル。と、なんと自転車好きなVit、以前日本の友人から聞いてこの店を既にInstagramでフォローしていた!

そして、郵便配達の人たちと一緒に船に乗り……

少しだけ、しまなみ海道をサイクリング。

岡山、倉敷


JRで少し東へ。


小学校の修学旅行で行って以来、ずっと再来したいと願っていた倉敷の美観地区。

やっぱり変わらず美しい。でも変わったところも沢山、らしい。


滔々 toutou

この日の宿は、倉敷で蔵を改装してギャラリーや宿を営まれている、滔々へ。

旅のフィナーレにも相応しい、素晴らしい宿。

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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。