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kaoru
2022年10月9日 20:50
いつになったら夏を迎える気になるの、と隣にいる彼女は尋ねた。まだ早いよとだけ返してベンチから腰を上げたが、キャンパスの中庭に響く蝉の声はけたたましく、正門に続く欅並木は先週よりも鬱蒼としていた。シャツの袖を捲るのすら億劫になる。東京はもう、どっぷり夏に浸かっていた。 「キャリアセンターに寄ってから帰るね」 遅れて立ち上がった彼女はそう言うと、紺色のリュックを背負いなおして南館へ向かってい
2021年6月3日 00:11
全力で暇そうな感じを出す。それが城崎さんの仕事の流儀だった。 発車ベルの鳴り響くホームに北風が抜ける。肩で息をしている間に動き出したのが向かい側の新幹線だったと気づくと、両足の重さが倍になった。革靴のかかとが今朝よりも少し擦り減ったのはたぶん気のせいじゃない。 会社を出たばかりだというのに、ホームから見上げた高層ビルが夜空の代わりに瞬きはじめている。さっきまでいたフロアを一瞥してから乗り