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City as a Commons −コモニングする都市

コモンズとしての都市(City as a Commons)とは

01  コモンズの背景
02  コモンズとしての都市という間の視座
03  世界的なコレクティヴネットワーク

いま「コモンズ/Commons」の捉え直しが進みつつある。「コモンズ」という概念は、かつては森林や農地などの共有地とその運営、そして利益分配の方法のひとつと捉えられてきたが、いまや「私たちに共有のものや場所」という意味で大きく捉えられるようになっている。これは、”国家だけでも市場だけでもない”第三の方法としての、当事者である市民による共同活用管理としての「コモンズ」である。

特にコミュニティデザインにおいて、パブリックスペースを住民主導で運営するコモンズととらえる都市型のコモンズのあり方(アーバン・コモンズ)の実践は日本を含めて世界中で見られる。一方、気候変動などの環境問題と社会の持続可能性の観点から地球規模のグローバルコモンズとして、トランジションに向かうべきだとの動きもある。これは人新世という認識が広まるにつれてより重要な視点となっている。

こうした中で私たちは、その間の視座として「コモンズとしての都市/City as a Commons」に着目したい。現在さまざまな試みが行われている「アーバン・コモンズ」を増やしつなげていくために都市全体がその土壌となる必要があること。そして、そのような都市が世界中でネットワーク化し増殖していくことで、「地球というグローバルコモンズ」を守ることに、都市が役割と社会的意思を示すこと。そのために、”都市そのものをコモンズとして考える”という間の視座が重要ではないだろうか。

旧来のコモンズは「共有地をメンバーで分け合う仕組み」を指していた。しかし現代のコモンズは、「共有であることを前提として仕組み化する」ことを指す。都市そのものがコモンズであるという考え方の上にたって、ともに生活する基盤としてとらえ、実践していくこと ––––– それが「コモニング/Commoning」の考え方だ。それは市民社会、民間、行政、そして個々人がともに都市をつくっていくというプロセスであり、テクノロジーやガバナンス、社会的なツールを構築していくことであり、人と人のつながり=ケアを構造として都市に巡らせていくことである。「コモンズとしての都市」は、人と地球のウェルビーイングをつくっていくはずだ。

世界ではすでにイタリアを中心とした「Co-Cities Project」や、バルセロナを中心とした「Fearless Cities Network」などといったコレクティヴネットワークがグローバルに展開されつつあり、「コモニングする都市」の研究と実践が始まっている。

「コモニングする都市」の基本原理

01   共有・協働・多心性という理念
02  5つのデザイン原則と五重螺旋システム
03  6段階の循環プロセスと3つのツール

これらの研究には、すでに研究成果を公開しているものもある。その中から、「Co-Cities Project」を取り上げ、「コモニングする都市」を実現するための鍵をみていく。

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まず、その基盤となる理念だ。「コモニングする都市」は、「アーバン・コモンズ」の基礎理念と言われる「共有」「協働」「多心性」を共有している。「アーバン・コモンズ」は個別のプロジェクトでこの理念の実現をめざすが、「コモニングする都市」では、この3つの理念を都市レベルでガバナンスの中心に据え、理念を体現できる法的・政治的環境を整え、実験の場とすることで、都市の変革(イノベーション)を促す。この”都市レベル”での取り組みという点が、「コモニングする都市」の特徴だ。

さらに、「Co-Cities Project」では、「コモニングする都市」を実現するための具体的なプロトコール(実行手順)をまとめている。プロトコールを構成するのは、「5つのデザイン原則」、「6段階の循環プロセス」、「3つのツール」だ。

【5つのデザイン原則】
◎ コ・ガバナンス 
◎ 可能とする自治体
◎ 社会的・経済的プール
◎ 実験主義
◎ 公正なる技術

6段階の循環プロセス
①チープ・トーク(結論に直結しないざっくばらんなコミュニケーション)→②マッピング(フィールドワークなど)→③プラクティス(シナジーの可能性の協働探求)→④プロトタイピング→⑤テスト→⑥仕組み化→①へと戻る

【3つのツール】
◎ 法的ツール
◎ 経済/財務ツール
◎ デジタル/技術ツール

これらのプロトコールの詳細については、別記事に譲ることとして、ここでは「コモニングする都市」を形作る「5つのデザイン原則」について、少しだけ補足する。

「5つのデザイン原則」が描き出す「コモニングする都市」では、市民が前景に出る。「コ・ガバナンス」の原則では、多様なアクターが多中心的にガバナンスに参画できているかを問うが、その尺度となっているのは「都市イノベーションの五重螺旋システム」だ。イノベーション分野では、これまでにも産官学が立体的動的に関わり合うトリプルヘリックス(三重螺旋)システムが提唱され、さらにソーシャルイノベーションの観点から、市民社会組織やNGOを加えたクオドラプルヘリックス(四重螺旋)が提唱されていたが、「五重螺旋システム/a quintuple helix system」では、それらのアクターに個人や地域コミュニティなどの”アクティブ・シティズン/active citizen”が加わる。

さらに、「5つのデザイン原則」の「可能とする自治体」と「社会的・経済的プール」では、外部に依存するのではなく、地域の多様な主体が共に主導権を持って、持続可能なコモンズを作り上げていく姿が示されている。そこでは、国家や公的機関が都市におけるコモンズのガバナンスで果たす役割も変化する。国家や公的機関は、自ら采配を振るうのではなく、多様な主体がコモンズのために共に取り組むことを可能とする”プラットフォーム”として機能できているかが問われるのである。

最後に、「実験主義」と「公正なる技術」では、「コモニングする都市」を実現するためのプロセスの重要性を指摘している。都市は社会的生態系システムであり、変わり続ける。つまり、ひとつの解決策に永遠に安住することはできないのである。だからこそ、科学的な姿勢を持ち続け、主体となるアクターを巻き込み、プロセスを丁寧に観察し、コモンズのガバナンスについて実験を繰り返すことをデザイン原則は提唱している。また、より多くの、特に弱い立場にあるアクターを有効に巻き込むために、技術が果たす可能性も重視している。

灯台となるコモニング都市としてのボローニャ

01   市民と知識組織を中心とした五重螺旋システム
02  都市をコモニングするための法的ツール
03  創発された潤沢なコモンズプロジェクト群

都市全体をコモンズであると捉え、社会実装を行っている都市の代表事例の1つとして、イタリアのボローニャが挙げられる。ボローニャは人口約40万人、イタリア北部に位置する都市だ。ヨーロッパ最古の大学が生まれたまちであり、イタリア料理でおなじみのスパゲッティ・ボロネーゼでも有名だ。

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ボローニャでは、女性初のノーベル経済学賞受賞者であるオストロム教授が示した、コモンズを国家でも市場でもなく当事者により共にガバナンスしていく可能性を、都市ガバナンスに適用及び拡張する実験を続けている。

①積極的な市民・社会的イノベーター・シティメーカー・地域コミュニティ、②公的機関、③民間アクター(国や地域の企業・中小企業 ・ソーシャルビジネス)、④市民社会組織・NGO、⑤知識機関、の5者が水平的なパートナーシップでつながり、五重螺旋システムを形成。都市空間全体をコモンズとするために、市民を中心とし、知識機関が都市のファシリテーターとしての役割を果たしていることが特徴的だ。

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そして、五重螺旋システムによるフィールドでの社会実験の末、個々のアーバン・コモンズの動きを「コモンズとしての都市」にまで拡張するために生み出されたのが、「アーバン・コモンズのケアと再生に関するボローニャ規定/Bologna's Regulation for the Care and Regeneration of Urban Commons」と呼ばれる、都市をコモニングするための法的ツールだ。

ボローニャ規定の第一章には、

1. この規定は、イタリア憲法および地方自治法の規定に沿って、都市のコモンズの管理と再生のための市民とボローニャ市の協力形態を規定する。

2. この規定は、アーバン・コモンズのケアと再生のための市民の介入が、市の協力を必要としたり、市の要請に応えたりする場合に適用されるものとする。

と記載されており、コモンズのケアと再生のための活動は、関心のある市民がいつでもだれでも活動に参加できるようにと定められている。

2014年にこの規定が承認されて以来、400以上の協力協定が締結されており、市内全域の緑地・広場・道路・歩道・学校・廃墟などの公共空間や建築の共同活用管理に関する市民とのコラボレーションが潤沢に生まれた。ボローニャを歩けば、その景色に自然と出会う。

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市民はコモンズのケアと再生を通じて、ケア概念としてのネイバーフッド/近所を再生。こうして「コモニングする都市」はボローニャで出現した。

そして、「コモニングする都市」のコレクティヴネットワークは着実に世界で拡がりつつある。(次回に続く)

<参考文献リスト>
01 『The Co-Cities Open Book』
【URL as a Commons】http://labgovcity.designforcommons.org/wp-content/uploads/sites/19/Open-Book-Final.pdf?fbclid=IwAR0lyDUwNAy2CICZkSEaTHNQEFGjJU6jkpPy3fzDjQAi0-s-d2HFZTnwyoU
02 『Fearless cities』
【URL as a Commons】https://fearlesscities.com/en/book
03 『Bologna's Regulation for the Care and Regeneration of Urban Commons』
【URL as a Commons】http://www.comune.bologna.it/media/files/bolognaregulation.pdf

市民都市研究会 
編集家/プロジェクトエディター 紫牟田 伸子
相模女子大学 准教授 依田 真美
福井県立大学 准教授 高野 翔