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[本読んだ] 『夜市』と『玩具修理者』を読み比べた。ついでに『酔歩する男』。

《本記事には掲題作品のネタバレが含まれるかもしれません。オチを書かないように注意してはいますが、読まれるかどうか慎重にご検討ください》

久々の本レビューである。

最近、若干ホラー調のショートショートを書いたので、今年読んだホラー系小説について書く。

因みに、「アッシは怖い話は……ブルブルブル 🥶」と逃げ腰のアナタ!
ちょちょちょい! 逃げる前にちょいと聞いてーな。

今回ご紹介する3作は、カテゴリーこそホラーだが、いわゆる呪いの人形がオラーッと追いかけてきて顔面にへばり付き、ブシューッと血しぶきが飛び散って「あぁ~ハミングさん~、だから言ったのにぃ~ ToT  1人で浴室で髪洗うのが怖いじゃないですかぁ~ ToT」、、、といった類の心臓がバクバクする怖さではない。

「ほぉほぉ、そうきましたか。怖いと言われれば、確かに怖いと言えましょうなぁ」というジワジワ系の怖さ乃至切なさであり、いずれも少しミステリーっぽい仕上がりになっている。

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すでに本記事のタイトルにも書いているので、先に作品名をご紹介する。

1作目は『夜市』(角川ホラー文庫)
(著者:恒川光太郎)

2作目は『玩具修理者』(角川ホラー文庫)
(著者:小林泰三)

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上に「さほど怖くない」みたいに書いた割には、「『玩具修理者』の表紙がすでに怖いですや~ん ToT」な少し嘘吐きな感じになってしまった ^^;

2冊ともに、かつての『日本ホラー小説大賞』(2019年度からは、「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」になったらしい)受賞作である。

従って、総論から言うと2作ともに面白い。
ホラー系やミステリー系がスキな方であれば、少なくともお金と時間を損した気分にはならないと思う(知らんけど。ぷくく🤭)。

因みに、これまで『日本ホラー小説大賞』受賞作は、『ぼっけえ、きょうてえ』『ISORA』『黒い家』など何作か読んでいるが、あまりハズレがないような気がする(←『ISORA』は佳作でした。後から修正しに来ました。失礼しました😅 大昔に読みました。因みに、実は劇場でISORAの映画版も観ました)。

なぜ、この2冊をまとめてご紹介するかというと、単に私が読み比べのために一気読みしたのである。

ここらへんのあらすじはアマゾンにも概要が書かれているので、軽く書いても差し支えないだろうと思う。

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(軽くあらすじ)
『夜市』……様々な世界の住人たちが出店を開く「夜市」。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに出店で買い物をした。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた……。

『玩具修理者』……玩具修理者は何でも直してくれる。玩具だけでなく……死んだ猫も……。ある日、私は弟を死なせてしまう。親に知られる前にどうにかしよう……。私は弟を玩具修理者の所へ持って行った…。

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何となく発想が似ていると思った。
アンタたち、大事な「弟」に何してくれてますねん!
……と、として育った私はキィキィ(ピヲピヲ🐦ちゃうんかい)鳴きながら一気読みしたわけである。

因みに、発想は似ているが、ストーリーや作風は全く異なる2作である。

冒頭に書いた通り、2作とも(個人的には)いわゆるホラーもの特有の背筋がゾワッとして背後が気になるみたいな怖さはなかった(あまり「怖くないホラー」とか書き過ぎると、「いや、めっちゃ怖いですやん ToT」と文句を言われても困るのでアレだが^^;)

誤解を恐れずに言うと、少し「静かなホラー」という印象である。
ホラー系の小説や映画は、シーンと静まり返ったシーン(洒落みたいになったが)で、いきなりグワッと得体の知れない化け物が出て来るという意味で「静 → 動」みたいな作品も結構もあるが、これら2作については「グワッ」という「動」もなく、淡々と話が進む。

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『夜市』

『夜市』に至っては、「ホラーというより、ファンタジーものっぽい」といったコメントがネットにも散見するくらいだ。

確かに「色んな世界の住人たちが集まる夜の市場」というくらいで、設定や世界観が少しねじれていて、自分の身にこんなことが起こったら……という意味では、確かにホラーなのかもしれない。
ただし、本作を読んでいる最中は、それこそ冒険ファンタジーを読み進めているかのようなワクワク感があった。

余談だが、私のスキなオカルト系アニメの『XXXHOLiC』(ホリック)にも、少しだけ似たようなエピソードがあった。

ただし、非力な人間である主人公(たち)が夜市に紛れ込み、お約束の「特別ルール」みたいなものが設定されていて、このルールを破るとどんな目に遭わされてしまうんだろう……みたいな、得体の知れない「I T」的な存在がじっとこちらの様子を窺っているかのような恐怖感はある。

上に「夜市の特別ルール」について書いたが、怒られない程度にネタバレしてしまうと、本作は「夜市」自体がいわゆる生物に置換可能なほどの神のような存在となっており、主人公とは別に「夜市」自体が主人公であるといった読み方をしても面白いかもしれない。

夜市で弟と引き換えに買い物をした主人公は、再び訪れた夜市で果たして弟を取り戻すことができるのだろうか?
……もう少しだけ面白そうなことを書くと、私のスキな「一見そうは見えないキャラ」が、「え~っ!」みたいなカッコいいギャップシーンもある……。
やばい! 『夜市』はここらへんにしておこう。

あっ! 最後に本作で「目的の夜市はすぐ近くにある筈なのに、暗い森を通り抜けなければいけない。もの凄く暗く静かなこの森を抜けると、そこに人(とか人外)が集まっているなんて信じられない」といった描写があり、私は即座に一昨年の名古屋旅行で訪れた『東山スカイタワー』を思い出した。

レンタルカーのない旅行で、夜の時間に最寄り駅から徒歩で同タワーを訪れたのだが、それこそ誰もいないような暗く寂しい山道を通り抜けた先にタワーがある。
森が上手い具合に夜空とタワーを隠し、目的地に着くまで「本当に道は正しいのか? この山道を抜けた先に観光スポットなぞあるのか? パラレルワールドに迷い込んでしまったのでは?」と半信半疑になる環境だった(名古屋在住の方、ごめんなさい。車で行く場所なのですね、きっと。今度、旅行記書くかも🦆)。

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『玩具修理者』

こちらは『夜市』とは違い、スプラッター系のホラーではないと言いつつも、常におどろおどろしい感じの物語を読まされているという一定の緊張感があった。
何と言うか、ホラーもの独特の「ソワソワする感じ」を胸のどこかに抱えながら読み進めた。

本作には、基本的に「ほんわか」とした要素はない。
そして、タイトルともなっている「玩具修理者」は、そのまま玩具の修理人ということだが、この人物を何とも得体の知れないキャラクターに仕立て上げているため、読み手に「その人、信用して大丈夫なの? ねえ、どうなの?」みたいな不安感を煽る。

もう1つ重要な点として……本作は結構グロい!
まあ、「死んだ弟を修理してください」という話なので、それ相応の覚悟はした方がよいと思うが、グロが苦手な方にはムリにお勧めはしない。。。

「死者を蘇らせる」というテーマはホラーの定番の1つだが、本作ではこの「復活の儀式」が功を奏するのだろうか?

因みに、本作のラストを読んだとき、思わず「怖さ」ではなく、「上手いなぁ~!👏👏👏」とゾワッときてしまった。
「怖さ」よりも「上手さ」で大賞受賞も納得という1作である。


~🐦おまけ🐦~
『酔歩する男』

『玩具修理者』に収録される作品である。
こちらもジャンルはホラーである(出版社が『角川ホラー文庫』である)。

こちらの文庫本に収録されるのは『玩具修理者』『酔歩する男』の2作であり、表題作が割とすぐに読み終わってしまい、残り大半のボリュームを『酔歩する男』が占める。

元々『玩具修理者』を読もうと思って文庫本を買ったので、本作については何ら先入観も期待もなかった。

しかし、本作は「タメになった」というか、実に「頭の体操になった(普段、私が滅多に使わないであろう部分の脳味噌を駆使させられた)」と思い、読んでよかった~な1作であった。

ネタバレにならない程度に「あらすじ」を軽く説明する。

※※※※※

(軽くあらすじ)
『酔歩する男』……主人公(男)はバーで、とある男に話し掛けられる。その男はまるで自分を親友であるかのように言うが、男の顔に見覚えはない。
相手にせずにその場を立ち去ろうとする主人公だが、その男は驚くべきことに自分の名前どころか、自分しか知り得ないような事実をスラスラと言い当てるのだった……。

※※※※※

この話は冒頭からすでにミステリー臭がプンプンするが、読み進めると「ん?」というような、かなりSF的というか、読む人にとってはトンデモ本に括られ兼ねない内容と感じた。

あらすじには書かなかったが、本作には「男2人」に加え、1人のヒロインが登場する。
最初、2人の男はヒロインのために争うのであるが……まあ……すったもんだあって(← ネタバレ禁止🐦)、1人はやがてヒロインを諦めるのだが、もう1人は30年越しにヒロインを思い続けるのである。」

私は、この「揺るぎない不器用で一途な愛だとか恋心」みたいな話にも結構弱く、先が気になってしまった。

そういった純愛モノかと思って読み進めていくと、途中から「相対性理論」だの「熱力学」だの「量子力学」だの「電磁気学」だの「カオス理論」だの「エントロピー増大の法則」だの「波動関数の収束」だの……と、話がやたらと込み合ってきた……。

ここで、「アッシは理数系の話は……ブルブルブル 🥶」と逃げ腰のアナタ!

大丈夫!
私も「理数系はブルブル……」なのだが、作品の中で「これで志望校に合格!」みたいな感じで、ストーリーに必要となる原則については「こういうモンだ!」と参考書みたいに解説してくれるので、私のようなレベルでも何とか話に付いていけた。

因みに、上の列記した「〇〇学」とか「〇〇理論」などの単語を見て、ワクワクと涎が出てきたり、澄ました顔で「あー、アレね。大した話じゃないわよ」みたいな憎🍗たらしい人であれば ^^;  本作をもっと楽しめるかもしれない。

そしてそして!
本作には何と!
私のスキな『シュレディンガーの猫』ちゃんが、出て来るではないか!

……因みに、親しみを込めて愛玩動物のように呼んでしまったが、私のペットではなく、量子力学上の著名な理論である。

私の大好きなラノベアニメ『青春ブタ野郎』シリーズに出て来る理論であり、初めて聞いたとき「すげーおもしれー🐦」と感じた。

『シュレディンガーの猫』が、どういった理論であるかは上の記事に軽~く書いたので割愛する。
同理論に基づき、本作では時間の流れの中で「実在」「非実在」がどのように確定し、どのように排除されるか……といった話が複雑に絡み合ってくるので、「『シュレディンガーの猫』はこういった文脈で使うのか!」ということが少し体得できた感じで嬉しい。


《オチは言わない程度のネタバレ》

以下の言葉にワクワクする方には、本作をお勧めしたい。
逆に、これらがどういった意味かよく分からない場合、先に大まかな意味を調べてから本作を読んだ方が楽しめるかもしれない。

(1)タイムリープ
(2)シュレディンガーの猫
(3)マルチバース

ん? (3)はマルチバース?!

そう、色々と物議を醸したこの映画である。

少し『エブエブ』のマルチバースを思わせる世界観も感じられた。

エブエブのように「異なる宇宙における主人公同士の対比」みたいな描写はないので、ネタバレはしていないつもりだが……「ああ、ハミングはこういうこと言いたいわけね……」というシーンが見付かると思うので、この手のSFモノに興味がある方も一読してはどうかと思う。

いずれにせよ、この話も登場人物の置かれた立場を考えるとラストが何とも切ない……。
そして、ヒロインが何かいい味出していると感じた。

※※※※※

もうちょっとスパッと切り上げるつもりだったが、また書いている内に長くなってしまった。

今回ご紹介した3作は「浴室やトイレが怖くなる系のホラー」ではないが、いずれも自分がそのような世界に放り込まれたらゾ~ッとすると感じさせる点で、ホラーな作品である。

ヒタヒタと心に忍び寄る恐怖を味わいたい方は、一度読まれてみてはどうだろうか。

(完)

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