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あなたは自分が、がんだと子どもに言えますか? 乳がんになった先輩医師  とポカリ片手に当直の日々

■当直をいつまで続けるのかと悩む日々


京都府立医科大学の八木田和弘教授は 持続する体内時計の乱れは免疫老化を促進するという論文を発表しています(https://www.kpu-m.ac.jp/doc/news/2020/files/23074.pdf)。
またフランスでは1976年、ヴィスナール教授が夜勤者は寿命が10年短くなるといった研究報告もあり、医師は当直と言う勤務がつきものですが、いつ当直を辞めるべきかと考えつつも、私も50歳となりました。

医師は病気に詳しいから病気にならないと思っているのでしょうか。医師の不養生とはよく言ったものです。私の先輩が、乳がんになりました。体の異変には気づいていたのですが、そんなはずがないと先送り。結局のところ、半年放置してしまったそうです。早く診断を受けていれば、結果は変わったと思います。しかし、早目に診断を受けても、受け入れられなかった可能性もありますが……いずれにせよ、長くはないことが告げられました。

■乳がんになった先輩の話


手術をする前の化学療法、手術、手術後の化学療法があります。先輩は中学生の男の子と2人暮らしだったのですが、息子さんだけではなく、先輩のお母様と一緒に化学療法室に面会に来ていました。なるべく仕事を続けたい、医師の仕事が生きがいだと、言っていましたが、結局のところ、長くはもちませんでした。

息子さんには「軽いがん」だと伝えていたそうですが、いつも元気で明るい先輩が、みるみるうちに弱っていかれたので、私に聞かれたことがありました。
「母は軽いがんなのですか?」
「そうだよ。これからがんと闘って仕事ができるようにしないといけないからね。今が大変なんだ」
先輩が息子さんに秘密にしたいことを、私がペラペラと話すわけにはいきません。嘘がバレないようにしなければいけないので、まさに医師が危険を感じた瞬間でした。

実は彼は私の児童精神科外来の患者です。お母さんを気遣う毎日、学校どころか日常生活もままならず、慢性疲労から、うつ状態となってしまったのでした。だから私と話すことが多かったのですが、診察を受けに来る彼に笑顔はありませんでした。

先輩もやりたい仕事もできなくなり、臨床心理士にお願いして、心理カウンセリングをしてもらうことにしました。先輩の気持ちに寄り添った対応をしてもらっているのにも関わらず、死が間近に見える時、人はどう思うのでしょうか。
自分の人生を振り返り、こんなハズじゃなかった。なんであの時、ああしなかった。私の人生は幸せじゃなかった。と思うのでしょうか。

■自分の人生の幸せはどこにあるのか


確かに自分の人生に満足して死ねる人はわずかです。ですが、自分の気持ちに改めて寄り添っているうちに、死ぬ前に本当にやりたかったことが見つかることもあります。

私は仕事人生じゃなくて、家族仲良く暮らしたかった。
仕事で家庭を疎かにしたから、旦那とも離婚することになった。
それから、生活のために仕事をしなくちゃならなくなった。
息子の入学式も卒業式も運動会も出たかったのに、出られなかった。
そんな気持ちが溢れてきて、これからどうしたいのかという気持ちに変化があったそうです。

先輩は仕事を最優先にする人でしたが、自分の本心に気付いて、息子さんと一緒にいることを選びました。それから先輩は、病気休暇。2年間は基本給を貰えるそうです。

息子さんは診療を続けましたが、
「母は僕のために無理して病気になったのではないか?」
と言う思いが自分の中で、「そうではない」と思えるようになるまでは時間がかかります。私も当直をしているときに、我が子が学校でトラブルがあったと聞けば、飛んで帰って、話を聞きたいと思うときもあります。そして、そういうことができる当直がない病院に勤務先を変えて、もっと家庭を顧みたほうが良いのではないかと思うこともあります。

自分の体調が悪いときはポカリ片手に、ときに点滴しながら勤務する。家族に会いたい。寂しい。医師の仕事はこのまま続けていける仕事なのだろうか?

まさに医師が危険を感じた瞬間です。

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