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■血液検査のCRP(C-reactive protein)の重要さ


小児科医であれば血液検査のCRPの重要さは十分に知っているでしょう。もちろん医師であればCRPの重要さはルーチン血液検査項目に入れることで証明されることでしょう。

しかし、私が研修医となった25年前はその認識は、そこまでではなったのかもしれません。何しろ医学生のとき、CRPの大切さはそこまでとは教わっていなかったからです。今では、小数点下2桁で表される値が以前は、施設によっては-、±、+、++、+++の定性でしか結果報告がなかったのでした。(+++が5以上、++は3.5以上5未満でした)。そればかりか、私が研修医をしていた大学病院では、CRPは夜間緊急項目に入っていませんでした。

だから、どうしても炎症の度合いを知りたいときには、白血球数で判断する。もしくは当時は自分顕微鏡で目視して白血球数すら数えなければなりませんでした。ベテラン医師からすれば検査結果じゃない! 人を診るのだ! と怒られてしまいそうですが、小児科では、子どもは見た目では判断つかないときがあります。

■数値を計るのは研修医の仕事


具体的には怪しいなと思って検査してみるとCRP値が高く、「これ細菌感染症ではないか?」ということは、25年目となった私のようなベテラン小児科医でもあるものです。とくに新生児ではCRP値ほど大事なものはありません。そうでなければ闇雲に抗生剤を使用することになってしまうのです。

以前はゲンタマイシンをお尻に注射するのをルーチンぐらいにしていた時代もありました。だから大学のNICU(Neonatal Intensive Care Unit)・PICU(Pediatric Intensive Care Unit)にはそれぞれCRP測定器が、小児科研究費で購入されていました。CRP値が知りたい場合には、研修医の出番です。採血して、血液を遠心分離して、CRP測定器で測定する。15分ほどで知りたい値がわかるのです。

小児科研修医で当直するようになり、そのCRP測定器との初対面は思わず声をあげそうなほど喜びました。古めかしいけど私には輝ける機器です。夜間、CRP値が知りたいときは神のような機器。この機器は私と恋人との関係のようになりました。切っても切れないような関係です。

ただ、CRP測定に使う試薬も高価であるため、小児科医局の負担となるのでそう簡単には使用もできないものです。それに機械が壊れてしまっては元も子もありません。だからどうしても必要な時に、使用するのです。

しかし、どうしてもというときは大学病院であれば稀ではありません。夜に家で寝ていると先輩から電話で、「今、●●病院にいるんだけどさー。寝てた? CRP測ってほしいんだよね」と言われて、●●病院まで行って、血液を受け取り、コソコソ検査したこともありました。

「電話って顔見えないけど雰囲気わかるんだよね」
「お前が電話出たとき、完全に寝ていたのはわかるけど、俺の声聞くとスイッチ入るのがわかるよ。お前かわいいやつだなぁ」
と褒められて、食事や飲みにつれて行っていただけるなら安いもんでした。

■恋人のような関係の検査機器


検査をして、台帳に患者氏名、CRP値、検査した時間と検査者を書く。たまに当直者の名前が書かれるときもありましたが、台帳の検査者の所には私の名前がズラ―っと並ぶようになりました。

CRP値は大事です。これだけ名前が並ぶと達成感もありました。

ところがある日、教授に呼び出されて、「君はCRP測定器使い過ぎじゃないのか?」と医局費のこともあるので怒り気味に聞かれました。
「えぇ。自分でも必要なのと、先輩に呼び出しされているんですよ」と説明したところ、「君はバカ正直だなぁ」と大声で笑われました。

「まさに先輩の小間使いじゃないか」
よく教授は研修医のことを揶揄して小間使いと呼ぶのです。結局、教授が夜間でもCRP値が測定できないか検査室に話を掛け合ったのですが無理でした。

そこで、関連病院には血液と試薬を混ぜるとCRP値が高いと凝集物が沈殿するキットとNICUとPICUには血算とCRP値が自動測定できる機械が小児科研究費で最新機器が海外から購入されました。

その機械があれば夜間でも看護師が検査をしてくれます。以前からあった私と恋人のようなCRP測定器との蜜月関係は1年ほどで終わりました。しかし、いざというときに使うことになる部屋の片隅に置かれたCRP測定器には、やはり特別な感情があるのでした。

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