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【医療コラム】医局の命令でいつでもどこへでも出向

以前、地方の病院への転勤を3カ月前に打診され、行き先の病院が正式決定したのは働き始める直前ということがありました。今回は、その時のドタバタ新生活の思い出をご紹介したいと思います。

唐突に訪れた転勤の打診
 当時すでに中堅になっていた私は、「転勤先で経験を積み、医局へ戻ってきた時にはポストを渡す段取りがある」と、医局長にそれとなく言われました。だから転勤を3カ月前に伝えたのは仕方がないことだとでも言いたかったのでしょうか。

 たとえ本当にそのつもりだったとしても、私が医局へ帰った時に医局長も教授もいなくなっていればどうにもなりません。地方への転勤は片道切符の可能性も考えられます。それでも、急な転勤であろうと、打診されたのであれば首を縦に振るしかありませんでした。

 そして地方の病院に行くことが決定したものの、正式に行く病院が決まったのは、働き始める3週間前。

 そこからは新居を探すため必死に走りまわりました。営業時間ギリギリで閉まりかける駅前の不動産屋へ仕事終わりに飛び込んだり、賃貸アパートのフリーペーパーや広告を見たりしました。そして、ようやく新居が決まったのは勤務1週間前のことでした。

荷物も気持ちも収拾がつかないまま…


 新居を探しながら荷物を少しずつまとめてはいましたが、引っ越し業者への連絡はまだでした。こんなギリギリ、しかも3月最終週に引っ越し依頼できる業者があるはずもなく、私は荷物も気持ちも収拾がつかない状態でした。

 仕事もそうです。私の他にも異動する人は多く、関連病院の代診などで休みも取れません。いえ、無理に取ろうと思えば、取れたと思います。しかしこの先、どうなるかわからない状況だったので、バイト代がもらえるなら仕事をしたかったのです。さらに長年勤めた病院を出ていくので、最後まできちんとやり遂げたいという思いもありました。

 最終日には形ばかりの送別会。別れを惜しむどころか、引っ越しをどうしようかと考えていたので、あまり内容は覚えていません。

 結局、業者から「引っ越し予定日の8日後であれば運べる」との連絡があり、それでお願いしました。しかし、荷物が運ばれるまでの間も生活しなければなりません。大量の着替えや電子レンジなどすぐに必要なものだけを車に詰め込み、先に持っていくことにしました。

 それまで住んでいたアパートの退去届も忙しくてすぐに出せなかったため、更新料などで4カ月分ぐらい余計に払うこととなりました。あの時は、本当にどたばたして無駄なことばかりしていたように思います。

グダグダな状態で始まった新生活


 さらに新生活が始まって、すぐに失敗したと気が付いたことがあります。1つは布団を運んでいなかったこと。もう1つは苦労して運んだ電子レンジが壊れていたことです。おそらく運び方が悪かったのでしょう。

 4月の新居には何もなく、本当に寒かったことだけを覚えています。暖房を強くしても寒く、熱いシャワーを浴びて温まっても、毛布にくるまるしかありません。暖房の風が身体に直接あたるのは健康上よくないかもしれないと思い、段ボールで壁を作って寝ていました。床は固いフローリングだったので体中が痛くなります。

 朝ごはん用にと夜のうちにコンビニで買っておいた温かい食べ物も、食べる時には冷え切っていました。しかし、壊れた電子レンジしかないので温めることもできません。

 今の世の中であれば、ネットを使って簡単にいろいろなものが手に入るでしょう。しかし、あの頃はそれほど便利ではなく、必要なものをすぐに買うことはできなかったのです。

引っ越し業者を待てず荷物を取りに


 そんな状態が3日も続き、あまりにもこの生活が辛く耐えられなくなりました。もう引っ越し業者を待っていられません。自分で前の部屋に荷物を取りに行くことにしました。

 勤務先に早退したいと泣いて頼んだところ、「入職6カ月まで有給休暇はとれませんよ」と、総務課のメガネのおばさんに言われてしまいました。

 それでも仕方ありません。私は給料が減ることを承知のうえで、早退して車で荷物を取りに行きました。

 その時に運んだのは、布団と掃除機、鍋、食器。部屋に到着し、運んだ荷物を開けました。私の運び方がまた雑だったのか、掃除機は壊れ、皿は何枚も割れていたのです。なんでこんな思いをしなくてはいけないのかと、悲しくて一人涙しました。

 さらに新しい勤務先では、そんなことを気晴らしに話せる相手もいません。なんとか頑張って仕事はするものの、帰る場所はゴミが散らかった寂しい部屋でした。

ゴールデンウィークに体調不良

 そしてようやく引っ越し業者が来る日になりました。使える荷物が増え、休日には壊れたものを少しずつ新しく揃えていきました。これは思いのほか楽しかったと記憶しています。

 しかし、無理がたたったのか、ゴールデンウィークに体調を崩し、勤務日以外は寝て過ごすことになりました。新生活で気を張っていたのが、ゴールデンウィークで肩の力が抜けて体調不良になってしまったのでしょう。

 そして、さらに連休明けには寝坊してしまったのです…。

 「ゴールデンウィークは終わっていますよ」

 昼過ぎに総務課のあのおばさんから電話がありました。後にも先にも、私が寝坊をしたのはこの1回だけです。

 新しく入職する医師にもこの話をしますが、今は医局でも早めに転勤を知らせることになっているので、もう私みたいなことには誰もならないでしょう。

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