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【医療コラム】 大学医学部からの分かり合える友人

■私が抱えているもの


本当につらいことは簡単には口に出せないものです。
分かってもらえる?
何て言葉さえも言えません。もし、「分かってもらえる?」と聞いて、「分からない」と言われたら、よけいに惨めな思いをするかもしれないからです。

私は子どもの頃、旅行をしたことはほとんどありません。外食も行ったことは、ほとんどありません。父が産婦人科開業医で母が助産師。ともに病院に張り付いて24時間仕事していたのだから、当然といえば当然ともいえます。

また厳しいしつけで医師になるべく椅子に縛り付けられ勉強ばかりさせられていました。夏休み明けや正月明けに、みんなの前で「休み中に何をしていたのか?」を発表することやみんなと話すことが嫌で、長期の休み明けは苦痛でした。どこかに行ったということもなかったので、押し黙るか逃げるかウソをつくしか選択肢がないのですから。

小学校高学年になってくると、中学受験に向けて塾に通うことになりました。私ほどではありませんが、私と同じようにどこにも連れて行ってくれない親を持つ友だちもいたので、気持ちは楽になりました。さらに、地方の医科大学に合格すると、全国各地から様々な年齢の生徒が集まるため、社会が広がったように感じたものです。この多様性の中で、私は一生の友人と出会いました。

■彼が抱えているもの


普段は明るく過ごしていた先輩でしたが、彼は留年。両親が呼び出され、学生部長から説明があったのでしょう、私は彼が父親に顔を殴られているのを見ました。今でも鮮明に覚えています。

「この、できそこないが!」

私も何度言われたことかわからない言葉。胸が締めつけられる思いでした。彼が私と同じ学年になり、100人程度の1学年だから彼が話しているのも聞こえてきます。
「おれ、バカだから留年したんだ」
そんな彼は明るい性格でしたが、留年生となるとみんな距離の取り方が分かりません。すでに同級生で、グループができているため、そこに入るのも大変です。そうなると結果、彼は同級生と距離をとるようになっていきました。

そんなある日、飲み会で彼は言います。
「うちさー。親が厳しくて勉強ばっかりで、ぶん殴られて育ったんだよね」
しかし、ある友人は、
「でもさ、世の中にはもっとつらい人もいるんだから頑張らないとだめだよ」
私も勇気もって友だちに打ち明けたのに、同じことを言われたことがあります。だから先輩の気持ちはわかります。

違うんだよ!
そんなこと聞きたくないんだよ!

■自分の隠していた気持ちを話すことで得たもの


その一件があった後から、私と彼は親友になりました。私は飲み会での彼の言葉を聞いて、私も彼に思い切って打ち明けたからです。「私も同じだよ!」と。隠しているよりも一緒に話そう、そう思ったら私自身もスッキリしました。ウインウインの関係です。

彼を殴っていた父の話。
私も同じ。

旅行にも外食にも行ったことなどほとんどない。
誰かと比較ばかりされて育った。
私は一浪して大学にようやく合格をすると、父に「高い学費払ったのに1年無駄にしやがって」と言われて、何度も何度もぶん殴られました。
本当は褒めてもらいたかった・・。今でも悲しくなるのです。

今でも彼とは親友です。
お互い分かり合える人がいれば大抵の事は乗り切れます。今は、ともに父親はすでに亡くなっています。そしてお互いに親となったのですが、親父がどういうつもりで、そういった態度を取り、そういった言葉を言っていたかの気持ちはわかりません。

だから、お互いに子どもに医師になれとも言いません。子どもが正直に気持ちを話せる、そんな親になろうといつも思っています。自分の父親のようにはなりたくありませんし、自分が子どもの頃に感じていた辛い気持ちを、自分の子どもにはさせたくないからです。

これまでのことを話して、これからのことを話す。ここまで分かり合える親友と出会えてよかった。あの時、勇気を振り絞って、彼に「私も同じだよ」と打ち明けられて本当に良かったと思います。彼との関係は、一生涯続くことでしょう。

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