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■印象深い新人たち


友人と思い出の新人について話せばキリがありません。若いからこそ、しでかしてしまったり、トガっていたりで色々とあります。私が新人で印象深く覚えているのは――といっても、一番はやはり私たちのことになってしまうかもしれません。

ギャンブル好きの新人が多かったり、研修医になってお金が入って、競馬にハマって、オンコールなのに連絡が取れないと思っていたら、たまたまお休みで競馬場に行っていた同僚に見つかった新人がいたり、オンコールでもないものの、入院症例があって電話で呼び出すといっつも10分ほどでやってくるすごい新人がいたり。その特性を挙げればきりがありません。

この10分ほどで来れる新人については、もう少し話があります。確かに病院の近くにみんな住んでいるけれども、そんなに早く来れるか?とこっそり同僚が後をつけていったら、技師さんたちと空いている会議室などで、なんと1週間も家にも帰らず麻雀をしていたということがわかりました。大人になって悪いことを覚えてしまったようです。

そういった新人はみんなの記憶に残るので、ちょっと話せば、あー--ってわかるものです。

■料理好きな新人


そんな中、当直中にスパイスからカレーを作ったり、料理好きな新人がいました。当直中と言っても、彼は当直ではありません。当直の人がいる時間帯にカレーを作ったり料理をしていたということです。

ただ研修医は忙しいものです。論文を調べ、カルテをしっかり書いていないと先輩たちからつるし上げられてしまいます。いやいやつるし上げられるは言い過ぎかもしれませんが、私などカルテをしっかりと書いていなかったら、カルテでぶん殴られたこともあります。私の研修医時代は、そんな時代でした。

話がそれましたが、なぜ彼が夜中に料理をしているのかというと、料理をして没頭しているとアイデアが浮かぶからだそうです。アパートに帰って、センベイ布団で寝ているよりも病院で誰かと話していた方が勉強になるから、とも言っていました。

カレーを作ったり、味噌汁を作ったり、焼き魚を医局のキッチンで焼いてくれる。ラーメンを作るにしてもチャーシューから作る。当直医には病院食が検食として提供されるのですが、そんなものでは足りません。だからこそ、彼の作るまかない飯は評判でした。

■新人が作り出した空間


没頭しすぎて焼き魚を焦がして隣の医局に怒られていたこともありました。ですが、翌日出勤してきた教授は、あからさまに怒るわけにもいかないので、ずっと苦虫を嚙み潰していたこともあります。

残りの餃子5個を3人で奪い合ったり、当直医でないものは時間外だから医局に届いているお中元のビールを飲んでのんびりしていたり。医局に誰かしらいる。そんな雰囲気ができていました。今だとuber eatsに頼めば済むことかもしれないけれども、医局で仲間というかFamilyを感じるときでもあったな、と今は思います。

彼はコミュニケーション能力にたけていたのでしょう。そしてマメで色々と気がつく。そんな新人を、みんなは応援してあげたくなるから、やがて医局長となり医局をまとめ上げる存在となりました。

やっぱり手に入らなかったものは気になるものですね。陰キャの私には手に入らなかった、陽キャの人気者の医局長。初めはちょっと変わった新人でしたが、月日がたつたびに貫録が着いていくのも見ていてわかりました。大物というのは、初めから他の人とは何か違うものなのかもしれません。私はと言えば、今では医局長の新人を知る数少ないベテラン医師になりました。

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