深夜ラジオの音

 高校の頃、ラジオが好きな友だちがいた。名前をカオルという。同じクラスだったけれど、学校ではほとんどしゃべらなかったので、わたしたちが友だちだなんて周りの誰も思っていなかったはずだ。いや、わたし自身も、カオルを友だちと言っていいのかどうかわからなかった。わたしたちはただ、夜中に電話するだけの仲だったから。

 風邪で学校を休んだカオルに、現国のテスト範囲の変更を伝えるように言われて電話したのが最初だった。要件だけ伝えて切ろうとしたら、カオルがいきなり言った。またあとで電話していいかな。親とかけっこう厳しい? ううん、そうでもない、大丈夫だけど。電話は0時過ぎにかかってきた。スマホも携帯もない時代で、わたしは自分の部屋に電話の子機を持ってきていた。電話していいかな、なんて言ったくせに、特に用事はないのだった。お天気とかテストの話とか、どうということもない話を二十分くらいして切った。カオルの後ろに、なんだかざらざらした人の声が聞こえるような気がした。

  三日くらいして、また夜中に電話がかかってきた。やはり話があるわけではなく、どうでもいいようなことをぽつりぽつりとしゃべるだけだ。今回も誰かが話している声がする。ねえ、誰かいるの。なんで。後ろで誰か話してない? ああ、ラジオつけてるから。

 数日に一度、カオルはこんなふうに電話をかけてくるのだが、いつも後ろに人の声、というかラジオの音が聞こえていた。あ、この曲なつかしい。ブルーハーツ好きなの。特に好きってわけじゃないけど、流行ってたじゃん。あー。電話していても学校でも、カオルはいつも落ち着いていて、何を考えてるのかまったく読めない。なんでわたしと電話したいと思ったのか、それもさっぱりわからないけれど、いつの間にかわたしはカオルの電話を待つようになった。なんだか心が落ち着くのだ。夜中に誰かと話をするというのは。

 わたしたちは高三で、当然ながら受験生だった。カオル、いつもラジオつけてるの? うん。勉強するときも? 邪魔じゃない? 邪魔じゃないよ。音楽かけたりはするでしょ? それはするけど。同じだよ。

 カオルは大学どこ受けるの。東大と京大。そんなわけないでしょ。じゃあ、早稲田と慶応。え、わたしと一緒じゃん。ほんとに? うそだよ。

 お正月、初詣に行ったわたしは、カオルのぶんまで絵馬を書いた。なんとなく、カオルはそういうことをしないような気がしたから。でも結局、絵馬はあまり効果を発揮せず、わたしは第二志望の女子大になんとか引っかかったが、カオルは志望する大学には入れなかったらしい。

 もう一年やって、またダメだったら就職かなあ。そっか。女子大いくんだ、なんかイメージちがうよね。合コンとかするんでしょ。どうだろうねー。

 卒業してからも、電話してきていいからね、とわたしは言おうとしたけれど言えなかった。予想していたことだったけれど、わたしが大学に行ってからは、カオルからの電話はなかったし、わたしもなんとなく連絡しづらくて、そのまま関係は途切れてしまった。もう顔もうろ覚えだけれど、電話の後ろで鳴っていたラジオの音だけは、なぜか今でもふとしたときに思い出すことがある。

 

 

 

 

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