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やり投げ 北口榛花選手の金メダルに思う、子どもが複数のスポーツに挑戦できる文化を作ることの大切さ

やり投げの北口選手が世界陸上で金メダル

2023年、世界陸上で北口榛花選手がやり投げで金メダルを取った。その後も、9月に自身の持つ日本新記録を再度更新。躍進が止まらない。特に陸上に詳しいわけでもないが、彼女の経歴を見ていてふと母として考えたことがあったのでまとめてみたいと思う。

北口選手の経歴

彼女は小学校時代はバドミントン(全国大会で優勝)、中学生では水泳とバドミントンの二足のわらじ、高校進学時には水泳をしていたが、陸上部の先生に誘われて、やり投げの道に入る。それでもしばらくは水泳と並行で競技に打ち込み、高1の秋からやり投げに専念するようになったそう。そして競技を始めて10年程で世界大会で金メダルを取ってしまう。驚き!

日本でスポーツ(部活)をやらせるということ

日本でスポーツ(部活)をやるということは、多くの場合、一つの競技に専念することを意味する。運動部の兼部は練習日の確保からも厳しいし、ルール上できない学校もある。

複数のスポーツを子どもにやらせる難しさ

日本において複数のスポーツをやることは制度上難しいことに加えて、文化的なハードルもある。日本人は「一つのことに集中する」ことが好きなのだ。二足のわらじは「中途半端」とみなされ、あの大谷選手が投打両方やると言い出したときですら、物議をかもした。

結果論かもしれないが…

北口選手自身、複数の競技を経験できたことがプラスになったと話している。

いろいろなスポーツをやらせてもらって良かったと思います。水泳やバドミントンをやっていたことで、試合への向き合い方や、緊張したときの対処法とか、いろいろ身について、やり投げの試合でアタフタしない。戦うことに慣れているのは感じます。体力面でも、水泳ほど肩をまわす種目はないので、柔軟性や肩の筋肉を鍛えられたと思うし、バドミントンは早く腕を振らないといけないので、しなやかさにつながっているかなと思います。

日刊ゲンダイDIGITAL 2023/01/10

北口選手や大谷選手は、類まれな才能があったから最終的に成功しただけ。普通は複数の競技やポジションにチャレンジしても中途半端に終わるだけ。そう結論付けるのは簡単だ。だけど、彼女が言うように、複数の競技やポジションを経験したからこそ得られるスキルもあるはず。

為末大さんの言葉

元陸上選手である為末大さんは、こう語っている。

現在の日本では一つの競技に打ち込むことが一般的ですが、違う競技に挑戦したり、掛け持ちしたりしやすい新たな文化を醸成することも重要です。例えば、野球の大会で応援席にいる選手の何人かは、他の競技で活躍できる可能性を秘めているかもしれません。掛け持ちができれば、指導者がそういう才能を発掘しやすくなります。

 10代半ばまでは、どんなスポーツが自分に合っているのか、いくつもの競技を試した上で、フィットするものを見つけられるようになるのが理想だと思います。

大分合同新聞 GXエデュケーション 2023/08/19

これ、本当に同意。

海外の課外活動はどうなっているか?

先日訪れたマレーシアのインターナショナルスクールでは、CCA(co- curricular activities)いわゆる課外活動は、基本的に週3回、月・水・金に実施。音楽系から運動系まで様々な活動があるが、日本のクラブ活動の様に一つを選択して卒業までずっと続けることはなく、むしろ、違うものに毎回申し込むことを推奨される。
だから、月曜日は吹奏楽、水曜日はチェス、金曜日はサッカー、のように子どももその日の気分によって活動が選べる。もちろん参加したくない人は無理に参加しなくてもいい。

なぜ日本では気軽にスポーツを楽しめないのか?

これはいつも思う疑問なんだけど、日本では気軽にスポーツを楽しむ方法がすごく少ない。野球やってみたいな、と思っても、地域のスポーツ団に入ると練習が週4回とか、土日は試合、とか。親もお茶当番に出なくちゃならないとか、遠征の時に車をださなきゃならないとか。正直うちはこれが無理で子どもにスポーツを諦めさせている部分がある。

中学高校の部活もしかり。運動部が毎日部活があるのは全然珍しいことじゃない。(なんなら弱小部活でも。)しかも自分が出ない試合でも「先輩の応援」で一日中試合会場にいることを強制されることもある。そこまで熱心に一つのことに打ち込まなければならない理由はなんだろう?
こんな環境じゃ、他のスポーツをやってみるなんて絶対無理。絶対に一つのスポーツに(できれば卒業するまで)熱心に打ち込むことが要求されるし、親もそれが当たり前だと考えている。

サークル活動という選択肢

一つだけ例外がある。それは大学だ。大学になってようやく「運動系部活」と「運動系サークル」に分かれ、「運動系サークル」に入った人だけが、参加したい日だけ、気軽にスポーツを楽しむことがやっと許されるようになる。もちろん掛け持ちも可。
これ、小学校からやりませんか?と思うのは私だけだろうか…。熱心に打ち込みたい人は部活動を選べばいい。でもちょっと興味がある程度の人、自分に合うスポーツを複数試してみたい人は、サークル活動でいろいろ試してみる。こんな選択肢が日本の小中高生にも必要だと思う。それか、せめて学期ごとに部活を変えられるとか。

周りの大人たちの意識改革

北口選手の例に戻りたいと思う。彼女のご家族は、本人が複数のスポーツにチャレンジすることを応援されていたのだと想像する。一つのスポーツで結果を残したからと言って、それに固執することなく、新しいスポーツへの転向をおそらく応援されたからこそ、彼女は高校生にしてやり投げに出会い、それで世界一を取っているのだ。部活の先生も、水泳と陸上の掛け持ちを柔軟に受け入れていたからこそ、彼女は陸上競技にチャレンジできた。

親も、指導者ももう少し日本の部活のあり方に疑問を持ってもいいのでは?と思う。一つのスポーツに青春の時間をすべてつぎ込む!というのも悪くはないけれど、自分に合うスポーツを見つけるためにいろいろ試してみるという選択肢をもっと認めてあげることで、第二、第三の北口選手が生まれるのではないだろうか。


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