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自由に書く

初めてちゃんと小説を読んだのは
小学4年生の時。

夏になると各社が
「おすすめの100冊」という
小雑誌を作っているが

たくさんの物語のあらすじが
簡潔にまとめられていて
無料なのにそれだけで楽しめてしまう点が
好きだった。

その中でどうしても読んでみたいと思ったのが
バレリーナを目指す少女が拒食症になってしまう物語だ。



何冊も紹介されている中から
なぜこの作品を選んだのかは覚えてない。

小学4年生ということや
初めての小説ということを加味すれば
もっと読みやすそうな話があったんじゃなかろうかと今となっては思う。


以降も小説を読むことはあったが
次に印象に残っているのは
高校生の頃に読んだ江國香織さんの
『つめたいよるに』だ。

この中の
「夏の少し前」という話が特に好きだった。



中学生の女の子が
家庭科の居残り学習で裁縫をしている最中、
白昼夢のような形で
自身の一生を一瞬でタイムリープする物語だ。

タイムリープの仕方が
あまりにナチュラルなので、
「こんなふうに人生はあっという間に過ぎ去るのだろうな」と思った。


昔から考えてしまうことがあって
人の一生というのは
ただ息を引き取る直前に見せられている
走馬灯そのものなのではないかということだ。

走馬灯のなかを
生きているような気がするのだ。

一瞬のなかに一生があって
一生は一瞬のなかにある
どちらも同じなのではないかと感じてしまう。



「夏の少し前」のなかで語られる詩は
何度も何度も繰り返し読んだ。

ははそはの
ははもそのこも
はるののに
あそぶあそびをふたたびはせず


わかるようでわからず幾度も読んで
それでもやっぱりよくわからず
だけど好きで、いつも心の中読んでいた。
調べると三好達治という方の詩だった。


その年の読書感想文は
「夏の少し前」について書き、
習字以外で初めての賞をもらった。


成績がいいわけでも
文章を書くのが上手いわけでもなかったので

"なんか珍しいこと書いてる奴おるな"という感じで目に止まったんだろうと今でも思っている。


数日後、職員室に呼ばれ
「すばらしい作品でしたね」と賞状を渡された。



たかが読書感想文だ。
先生だって定型的に
その言葉を言っただろう。

でも私にとっては
自分の考えを他人に肯定された
初めての体験だった。
とても嬉しかった。



ここ数年行き詰まっていた私が
「自由になりたい」と強く願ったときに思い出したのが読書感想文を書いたときの感覚だった。

感じたこと考えたことを
「こんなこと書いたら恥ずかしいかも」とか
「下手だ」とか一切気にせず

思いつくまま書き殴ったあの感覚で
思いを形にしてみたいと書き始めた。




このままずっと書いていたら
あと10年後、20年後、30年後には
どんな文章を書いているんだろうか。

もっともっと自由になれているだろうか。


未来を想像すると
憂鬱になることも多いなかで
楽しみなことの一つだ。


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