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ひとり寝までの一、ニ、三歩

双子の娘たちはこの春、小学校に入学した。自宅から小学校までは、彼女たちの足でもそれほど時間はかからない。いりくんだ道でもない。

道順を覚えた彼女たちは、だんだんと母をうとんじ始めた。朝の登校時、わたしが彼女たちの後ろをそっとついて歩くのを嫌がるようになったのだ。

「もうー、道はわかるから、ついてこないでよおぉー!」

午前8時。静かな住宅街に、娘たちの声が響く。近所迷惑だ。

そんなこと言ったって「しばらくの間は登校に付き添ってあげてください」と小学校から伝えられている。ほかのお母さん方だって、まだ付き添い登校をしている。

「じゃあ、そこの角までね」

そう言って少しだけついて歩き、彼女たちが角を曲がるのを見届け、わたしは家へと戻る。

たぶん、彼女たちのなかで自立心とやらが育っている。なんでも「自分で! 自分でやる!」と聞き分けがなかった時期は過ぎたけれど、まだまだ自分の全能性に挑んでみたいお年頃なのだ。なんでもできるもん、を味わいたいらしい。

ちょっぴり寂しくなったところで、はたと気づく。

じゃあ夜、一人で寝てくれないのはなぜなの?

もともと娘たちとは「小学校に上がったらベッドを買ってママとは別に寝る」約束をしていた。三人で3枚のお布団に雑魚寝ざこねするスタイルを卒業したがった彼女たちの希望だ。

それが、いざベッドを買おうとすると、強い抵抗にあった。

「いーやーだーーー! まだママと寝る!」

かなり強硬に言い張った娘たち。入学に合わせて、それぞれの部屋に本棚を据えつけたけれど、ベッドだけは嫌なんだそうだ。

わたしのほうは、彼女たちが小学生になったらひとり寝するのだと思っていただけに、拍子抜けである。この家に入居して以来、ほぼ使ったことのない自分のベッドで寝られる! ほんのり孤独も感じちゃうかもね?! ……なんて予想していたのだけれど。

娘たちの心には、大人みたいに自分のことは自分で面倒を見たい気持ちと、甘えたい気持ちが共存しているのかもしれない。

じゃあ、それも全部ひっくるめて受け止めなきゃいかんなあ。おかげで、彼女たちとごろごろ寝っ転がる時間をもう少し噛み締められそうだ。

深夜、先に眠っている二人の頬に顔を近づけ、その匂いを嗅いでから布団に潜りこむ。変態と言われようが、わたしの大好きなひととき。これがあとしばらく味わえるのだと思うと悪くない。

ひとり寝なんて、今後いつでもできる(おそらく)。まだ自分だけのベッドまで一歩か二歩、いや三歩くらいの距離はありそうだ。

今のうちに、雑魚寝の幸せを味わいつくしておこう。

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