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おどろおどろしさへの憧れ

「怪談入門」(著:江戸川乱歩)を買った。
冒頭には、「火星の運河」、「白昼夢」、「押絵と旅する男」の三篇が旧仮名遣いで収録されている。そのほかには、乱歩が怪談やこわいものについて語ったエッセイや、海外作品含む怪談小説についての考察、そして同時代の作家との対談などが載っている。冒頭の三篇含め、当時の雰囲気が近くに感じられるファン垂涎の一冊だ。

じつは一度この本を図書館で借りたのだけれど、家に置きたい!と思い本屋に走った。本書は2016年発行にもかかわらず、向かった書店では初版本が置いてあった。しかも研磨もかかっていない良品!

江戸川乱歩作品を好きになってから、もうずいぶんと経つ。
好きな理由はたくさんあるが、一番の魅力はやはり読者の「こわいものみたさ」を刺激するところだと思う。

乱歩の作品は、人の普段見えないところ、たとえば嗜虐性や人形愛など、本来隠しておきたい秘密の部分をのぞかせてくれる。そしてときには、自分も物語の主人公の後をついて、一緒に誰かの生活を「覗き見する」。

乱歩小説におけるこわいもの、見たくないもの。それは幽霊などの怪異ではなく、人間の醜悪な面や、異常な部分である。
物語の中における事件は、いつも「起こりうる、起こる可能性がある」ものたちだ。

誰しも、きっと少なからず人に見せられないような異常性を隠し持っている。そしてその異常性を他人の中に認めるため、秘密を共有する後ろ暗い楽しさのために、乱歩の小説もまた、時代を超えて読まれるのではないだろうか。

残虐への嫌悪と羞恥を生み出してから何千年、残虐はもう揺るぎのないタブーとなっているけれど、戦争と芸術だけが、それぞれ全く違ったやり方で、あからさまに残虐への郷愁を満たすのである。

ーー「残虐への郷愁」より

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