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ハチノニ(1)〜精神科閉鎖病棟の日々〜

ハチノニ。それは私が生活をする病棟のあだ名。8号館2階の男女およそ40人が暮らす鍵のかかった特別な場所。高校生から老人まで、様々な年代の人が今日も生きることに向き合い進んでいく。

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「はい、じゃ、入院の手続きをするので、事務の方に行って話を聞いてください」
私は重たいスーツケースを引きずって、とぼとぼと事務室に歩いて行った。おばちゃんに案内され座った事務の部屋の隅で、私と母は入院に関する注意事項を聞き、同意書にサインなどをした。一通り終わると席を立ち、また待合室に戻った。しばらくすると、病棟から若い可愛らしい看護師が来た。
「こんにちは、ナカジマと申します。今から病棟にご案内しますね。」とニコニコと彼女は私を連れてエレベーターに向かい、2階のボタンを押した。2階に着くと、重い鉄の扉があり、ナカジマさんはポケットから鍵を出し開けた。中に私たちを入れると扉はカチャっと音を立て、閉まった。扉を抜けた先には、また扉があり、また鍵を開けて入った。そうして、私は初めてハチノニに足を踏み入れた。共用スペースと思われるところには巨大なテレビが一台と、テーブルとカラフルな椅子がいくつか並んでいた。イメージしていた閉鎖病棟とは違い、明るい場所だった。そんな戸惑う私を置いてナカジマさんは廊下の1番奥まで私を連れて行った。診察室と書かれたその1番奥の部屋には若い男と女の先生がいた。母は私に気を使い、部屋を出ると自分から申し出た。先生たちと私だけになり、問診が始まった。その時だ。私の意識が遠のき、身体が横に倒れていく。今朝から険悪な仲の母と一緒に過ごしていたせいだろう。私はそのまま横にあったもう一つの椅子に身体を倒した。

つづく

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