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排出権取引の現在地

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カーボンプライシングの1つ、排出権取引。世界を見渡すと、EUや中国、韓国、ニュージーランドなど、幅広い国で実施され、着実な効果を上げています。日本で検討されているGX-ETSはど… もっと読む
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記事一覧

追加性(Additionality)を理解しよう

皆さん、「追加性(Additionality)」という用語はご存知ですか? J-クレジットの実施規定において「プロジェクトが満たすべき要件」の一つとして挙げられていますので、クレジットに携わったことのある方なら、当たり前の概念ですよね。 何も国内に限ったものではなく、国際的な概念であり、ボランタリーなGHG排出削減プログラムを推進する非営利団体のICROA(International Carbon Reduction & offset Alliance)は、認証可能なクレ

中国版S1・S2? ESRS? したたかな戦略

上海・深圳・北京という、中国の主要証券取引所が、サスティナビリティ情報開示ルールのドラフトを公表、コンサルテーションを実施しています。 noteでも繰り返しご案内しているように、昨年ISSBがIFRS S1・S2基準をリリースして以降、各国・地域の規制当局が、それぞれの事情を反映させたS1・S2基準を策定してきています。 日本版は、昨年度末日にSSBJが公開したことが、記憶に新しいところ。 上記に記載がありませんが、香港政府も2024年度から段階的に導入開始し、2026

クレジット動向を勝手予測

かれこれ10数年、国内のカーボン・クレジットに携わっていますが、海外のカーボン・クレジットのダイナミックさには、目を見張ります。 そもそも、国内のクレジットは「半」コンクレ(コンプライアンス・クレジット)の、J-クレジット一択。ただ、方法論が限られ、使い勝手も悪い。 今後、GXリーグから超過排出枠も生み出されるでしょうが、活況を呈する状態となるかは??? 完全なボラクレでは、例えば、フォレストック認証などもありますが、普及しているとはとても言えない状態。(応援したいです

クレジット化、必要ですか?

「カーボン・クレジット」という概念が、環境に携わる方々の間では浸透し始めてきていることは、私も含め、皆さんも実感されていることでしょう。 noteでは、その意味・意義や活用については繰り返しご案内しているという自負があり、喜ばしいとは思っています。 しかしながら、普及するに従い、問題が発生することは世の常。いつまでも、スタートアップで居続けられるとは限らないのです。 それを痛感するのが「クレジット作りたいんですけど」という問合せ。 noteでは、ブルーカーボンを推して

「いつか来た道なのか」(2)

前回、4月4日開催の「第13回グリーンイノベーションプロジェクト部会」において、GX経済移行債による支援の条件として、GXリーグ参加が義務となった旨お届けしました。 GX経済移行債という「アメ」とGXリーグという「ムチ」を組み合わせた、うまいやり方ではありますが、ここに至るには、紆余曲折がありました。 実務には直結しませんが、Coffe Break代わりにお読み頂ければ幸いです。 さて、皆さんご存知ないかもしれませんが、排出量取引(ETS)は日本でも行われていました。

「いつか来た道」なのか?(1)

4月4日に実施された、「第13回グリーンイノベーションプロジェクト部会」において事務局から提出された資料により、GX経済移行債の支援を受ける企業は、GXリーグ参加が必須となることが明らかになりました。 「参加等」であり「相応のコミット」をすればよいという書きぶりになっていますが、マストであると言ってよいでしょう。 法律に遡及効はありませんので、既に公募が始まっている案件については対象となりません。ご安心ください。 他方、GX経済移行債のみならず、今後は、一般財源で支援を

ブラジルのVCMが熱い?!

昨年、「アジアのカーボン・マーケットが熱い」というお話をしました。 既に稼働している中国や韓国はもとより、台湾やインドネシア、ベトナムで取引市場設立が予定され、インドでも模索しているというものでした。 また、気候変動だけでなく、サスティナビリティ情報開示のインフラを共通化し、統一したESG指標を導入するといった動きも出ていました。 個人的にも、台湾でブルーを創生しようと青図を描いていたところなのですが、地球の反対側、ブラジルでも「カーボン・マーケットが熱い」というお話をお

VCMに革命をもたらす10のイノベーション(4)

BeZero Carbonのレポートを、簡単な説明と、個人的見解を交えてご案内しているシリーズ、最終回。 前回までで1〜6まで紹介しましたので、今回は、残りの7〜10です。 よろしければ、こちらもご参照下さい。 10のイノベーションはこちらでした。 7. Insurance - giving the risk to people who want it クレジットを買う側からすると、これまでは、プロジェクトが実現するか、イニシャルのリスクが大きかったように思います。つ

クレジットと証書の違いを押さえておこう(2)

前回は、カーボン・クレジットと証書違いの、根本的なところをご案内しました。「まずは違うと言うことを知っておいて下さいね」と。 1回目はこちらです。 ただ、理屈ではそうだと思うのですが、個人的には、「高品質なクレジット」であれば、積極的に購入してほしいと思っています。 というのも、バリューチェーン内であれば、製品開発や購買行動、取引先へのエンゲージメント等を通じて、全体の排出削減を図ることができます。 しかしながら、バリューチェーン外では影響力を及ぼすことができないとこ

非化石価値取引結果 23年度第3回

23年度3回目となる非化石価値取引市場の取引結果が、2月29日までに全て出揃いました。(約定日は、非FIT(再エネ指定無し)、非FIT(再エネ指定)、FITがそれぞれ、27日、28日、29日) 取引結果が公表される度にご案内しています。 前回の結果は、こちらを参照下さい。 まずは、約定量から見ていきましょう。 FITは継続的な需要があるところ、非FITは前回喪失した需要が戻らず。 従前この市場では、2つの異なる価値の調達のために証書が取引されていました。一つが小売電力事

VCMに革命をもたらす10のイノベーション(3)

BeZero Carbonのレポートを、簡単な説明と、個人的見解を交えてご案内しているシリーズ、3回目。 前回までで1〜3は紹介済み、今回は、4〜6をご案内。 よろしければ、1回目、2回目もご参照下さい。 10のイノベーションはこちらでした。 4. Regulators & initiatives - from theory to practice ESG開示フレームワークは、2000年一桁台はGRIスタンダードのみだったところ、2013年にIIRCが国際統合報告フレ

ASEANにもサスティナビリティプラットフォーム

ブルサ・マレーシア・ベルハド(ブルサ・マレーシア)、インドネシア証券取引所(IDX)、タイ証券取引所(SET)、シンガポール取引所(SGXグループ)は、それぞれのデータ・インフラに共通のESG指標を導入することで、ASEANの持続可能な開発を推進するため、ASEAN-Interconnected Sustainability Ecosystem(ASEAN-ISE)に関する協力を発表しました。 プレスリリースでは、ASEAN-ISEの目的は以下のように謳われています。 こ

VCMに革命をもたらす10のイノベーション(2)

格付機関のBeZero Carbonが、VCMの現状を打破してくれる10のイノベーションについてレポートをリリースしています。ただ、クレジットに馴染みのない方にとっては「?」となるところもありますので、分かりやすく説明しながら、内容をお伝えしていきたいと思います。 前回は、前置きで終わってしまい、申し訳ありません。 ですが、背景についてご案内していますので、よろしければ参照ください。 10のイノベーションを、再掲しておきますね。 今回は、1〜3についてご案内していきます。

VCMに革命をもたらす10のイノベーション(1)

クレジットの創生に東奔西走する私としては、捨て置くわけにはいかないタイトルのレポートを、BeZero Carbonが出していました。 BeZero Carbonは、独立したリスクベースでプロジェクトの品質を評価するカーボン・クレジット格付企業です。 専門のアナリストと独自のモデルにより、ライフサイクルのあらゆる段階に対するレーティングとリスク分析を行っており、その方法論や評価フレームワークが常に公開されていることから、個人的に期待しています。継続的に監視され更新されるのも