ミステリー・アンソロジーの世界 ~英語多読のための読書ガイド [ミステリー]~
ミステリー編 ~2023年10月号~
執筆:河出 真美 (梅田 蔦屋書店 洋書コンシェルジュ)
ミステリー・アンソロジーの世界
今回ご紹介するのは、短編ミステリーのアンソロジー2冊です。
まずはTiny Crimes。
なんと1話が4~5ページ程度の超短編を集めた一冊です。
執筆陣が豪華で、アメリア・グレイ、ブライアン・エヴンソンなど、海外文学ファンなら唸ってしまう、まさに今をときめく作家たち。
日本からは中村文則が参加。
カルメン・マリア・マチャドによる、なんとたった一文で一編の小説を書いてしまった詩的で美しい“Mary When You Follow Her”は圧巻。
次なる1冊はFuture Crimes。
収録作はいずれも数千語程度の長さのSFミステリーです。
アイザック・アシモフやジャック・フットレルなど、ミステリーファンならにやりとしてしまう顔ぶれが集まっています。
中でもタイムマシンを利用して富を手に入れようとした男の運命を描くアントニー・バウチャーの“Elsewhen”、死の病が蔓延したディストピアを描いて哀切なP. D. ジェイムズの“Murder, 1986”が面白い。
いろいろな作家の作品を読めるのも楽しいアンソロジー、ぜひ手に取ってみてください。
(1)『Tiny Crimes: Very Short Tales of Mystery and Murder』
千語以下のボリュームで、実力のある作家たちがあの手この手で見せてくれる個性豊かな犯罪物語を集めている。
やたらJohnという登場人物が出てくる“Circuit City”など、癖のある作品もあるが、4~5ページという短さなので、ぜひ挑戦してみてほしい。
英語圏の作家だけでなく、日本の中村文則のように他言語の作家の作品も収録されている。
(2)『Future Crimes: Mysteries and Detection through Time and Space』
SF・ミステリーの世界にその名を残すクラシックな作家たちによる粒ぞろいのアンソロジーで、作品が発表された時点から見た未来の世界や技術が興味深い。
学術上の発見を横取りされたと訴える学者がふたり。
嘘をついているのはどちらなのか――という謎が魅力的なアイザック・アシモフ“Mirror Image”の冒頭には、かの有名なロボット三原則が掲げられている。
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