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クラフトコーラの定義について。その”現在地”を紐解こう

【更新】
2021年5月24日:
「2.そもそも、コーラの定義とは:原点を探る」の章の後半、”原材料”の話で一部アップデートしました。

2021年1月5日:
「4.クラフトコーラは、コーラナッツとどう向き合う?」の章の最後に”コーラナッツが果たしていた役割”について追加しました。

さて、僕が考えるクラフトコーラの定義について。

前回は「ひと言目には、作り方(天然素材のみで作っていること)からコーラとの違いを伝える」方針を掲げましたが、

今回は、より踏み込んでいきます。

▼前回の記事

〆———

1.クラフトコーラの定義は、いまつくられている

誰もが思い浮かべざるを得ないほど精緻なクラフトコーラの定義は、
まだ” ない、と思っています。

というより、いま、定義がどんどん拡張し続けているというのが、正しい答えかもしれません。

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黎明期を過ごしている今だからこそ、クラフトコーラの数だけ、様々な製造経緯、作り方、売り方などが生まれています。

いわば、

作り手たちの行為が、クラフトコーラの定義を少しずつ形づくっている

そんな状況なのだと思います。

それを横目に、自分の頭の中でも「クラフトコーラってなんなんだろう」と、ずーっとぼんやり考え続けてました。

日々クラフトコーラを飲んではつぶやき、それを繰り返し、テレビに出演し、何回もイベントを重ねて、その度に人に伝えてきた自分だからこそ、感じたこと、考えたことは、もちろんあります。

せっかくの機会なので、頭で辿った経緯を整理していきたいと思います。

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〆———

2.そもそも、コーラの定義とは:原点を探る

クラフトコーラの定義を述べる前に、コーラの定義って何よ?というところから。まず、コーラの起源から、定義を探ります。

数ある文献の中でも、僕が大好きな「歴史を変えた6つの飲物-ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語る もうひとつの世界史-」を中心に。

コーラは、1886年に薬剤師 / 売薬製造業者のジョン・ペンバートン氏アメリカ)によってつくられ始めたそうです。


当初は、「刺激作用がある」と売薬素材として当時人気だった「コカの葉」をワインに漬け込む、「フレンチ・ワイン・コカ」という飲みものを作って売っていた、とのこと。
(🤔ただ、フレンチ・ワイン・コカは、ある製品の製法を真似した後発品だったそう。コカの葉とワインを漬け込んで薬的な飲みものとして売ることが流行っていたんですね)


そこに対して、当時同じく「刺激作用がある」と売薬素材として注目を浴びていた、コラノ木の種子「コーラナッツ」を加えて製造し、どんどん売り上げを伸ばしていったんですって。
(🤔更なる改良を図って、コーラナッツを選んだんですかね)


しかし、突然障壁が。拠点としていた地域で「アルコール飲料の販売禁止」が決議されてしまい、ノンアルコール飲料として舵を切らざるを得なくなったらしく。
(🤔幸か不幸か、これがコカ・コーラがノンアルコール飲料になるきっかけとなったのでしょう)


その状況を踏まえ、ノンアルコールの売薬/飲料としてヒット商品をつくるべく、苦みを抑えるために砂糖を加えた。さらに、通常の売薬とは異なる形にすべく、薬用のソーダ水に加えるための「シロップ」として売り出したそうです。
(🤔当初もシロップの形状だったのか...)


そうこうして、ノンアルコールの売薬/飲料として納得のいく製法に辿り着き、あとは名前をつけるだけ。原材料の「コカの葉」と「コーラナッツ」から「コカ・コーラ」という名に繋がった、と言われています。


ここから簡易にポイントをつまむと、以下のような起源がみえてきます。


●コーラナッツなど天然の素材を使っていた&コーラに「薬」としての機能をもたせていた
(🤔薬といっても、カフェイン由来の「特効薬」ではありますが)

コーラナッツを使っていたことから「コーラ」という名になった

●シロップで販売されていた
(🤔薬局を中心に卸されていたようですが、その際はソーダファウンテンという炭酸製造機とともに置かれていた)

参照:「歴史を変えた6つの飲物-ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語る もうひとつの世界史-」

さらに、各所でも言及されていますが、当初のコーラの味わい・香りは”7X”という7つの素材(ハーブやスパイス)で調合されていたといいます。

〈7x〉
オレンジ、レモン、ナツメグ、コリアンダー、シナモン、ネロリ、バニラ

つまり、以下も”コーラらしさ”となるでしょう。


●スパイスや柑橘を”複数つかって、成り立っている”こと
🤔配合バランスで主役は生まれど、オレンジジュースやジンジャーエールのように”単一の素材に由来しない”ことは、ひとつポイント?)


こうしてみると、今接している多くのクラフトコーラのほうが、今のコカ・コーラよりもコーラの原点を踏襲している、といえます。

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3.そもそも、コーラの定義とは:現代のコーラ

さて、話は現代のコーラに変わります。
コーラの祖であるコカ・コーラは、どんな素材で作られているのか。

糖類(果糖ぶどう糖液糖、砂糖)/ 炭酸、カラメル色素、酸味料、香料、カフェイン

そう、コーラナッツは全く使われていないのです。とあるタイミングで使われなくなり、添加物に代替されてしまいました。

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この添加物たちがどう味覚にアプローチしているか、そのあたりをまとめているのが、料理家 / 食のクリエイティブディレクターであり、鯉淵も推奨する『TÉTOTARŌ COLA』の作り手である、井上 豪希さんのnote。

『コーラの構成要素のうち外して考えてはいけない大事な要素は「苦み」「甘み」「香り」の3つ』など、レシピという切り口で、進化の変遷やあるべき味覚を歴史から考察しています。めちゃめちゃ面白い。

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さて、今となってはコカ・コーラにはコーラナッツが入っていない。それでも、「コーラ」として君臨しているワケです。

クラフトコーラの世界ではどうかというと、伊良コーラやともコーラをはじめ、コーラの原点をリスペクトしてコーラナッツをつかっているクラフトコーラ銘柄は、多く存在します。

しかし、中にはカフェインを含有していること等を踏まえ、あえてコーラナッツを入れていない銘柄さんも多いんです(妊娠中の方や子どもに配慮して、等)。

(🤔きくところによると、苦みは出つつも、味わいや香りにはさして影響しないそうです)


〆———

4.クラフトコーラは、コーラナッツとどう向き合う?

悩ましいですね、コーラナッツの存在。

素材として入っているべきなのか、そうでないのか。
名前の由来となった経緯を踏まえれば、入れるべきかもしれない、とも感じる。

ここで注目すべきことが、かつてのコーラは「“特効薬”として機能すべく、覚醒作用(カフェイン)を含むコーラナッツを選んだ」ということ。

さて、今の時代、特効薬的存在や医療の発展に恵まれ、身体の不調が起きても、多くの場合は対処可能になっています。

そんな現代が辿り着いてる考え方は、「特効薬に頼るのではなく、そもそも予防しよう」ということ。予防医学の考え方を手に入れている現代に、わざわざコーラを作ることの意義を考えると、覚醒作用(カフェイン)の役割を果たすコーラナッツは別に必須ではないのかな、と思っています。ましてや、食品添加物なんて、もってのほか。

さらに、ノンアルコールドリンクであることの意義も考えると、「線を引かないこと(誰でも楽しめること)」があると思います。

カフェインを採るべきではない方々(妊娠している方や子供たち)がいる以上、コーラナッツを必須とするとその存在自体で確固たる線を引いてしまう。なので、必須とまではしたくないな、と。

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クラフトコーラがたくさん現れ、各々が定義をつくっていってほしいと願う自分は、「コーラナッツは入っていなくとも、クラフトコーラである」という解釈を持ちたいと思います。

大事なのはきっと、”コーラナッツに向き合ったか、ということ”。

コーラの発祥にあったコーラナッツの存在を知り、その正体をわかった上で、どんな考えでコーラナッツを入れているのか、あるいは入れていないのか、そこの思想とプロセスを踏んだか、だと感じています。


ここで、見逃せないことが1つ。

コーラナッツの原産とされている主に西アフリカを中心に、イスラム教徒にとっては唯一使用を許された刺激物で、眠気覚ましで日常的に用いられたり、さらには、結婚式や子供の命名式、葬式等の儀式にも欠かせないものなんだそう。現地では、「神聖な存在」として大切にされている、といいます。

つまり、コーラナッツに信仰心や役割、いわば社会的にも個人的にも「意味」をもたせていたわけです。

コーラもといクラフトコーラがコーラナッツを必須としなくなった今、コーラナッツが果たしていた役割は機能しなくなるでしょう。

なので、その代わりに、作り手が「意味」を付与し、飲み手がその意味を享受できるようにするべきなのではないか、と思っています。

そして、それ自体が”クラフト”コーラの定義に関わってくると考えています。

〆———

5.クラフトコーラは、自家製コーラではない

コーラナッツが入っているかどうかは重要ではないならば、クラフトコーラの定義において、どんなことが大事になってくるのか。

上述で“「意味」を付与すること”と考えましたが、「クラフト」のという名にも同様のヒントがあると考えます。

「クラフト/craft」、という言葉。

何かと簡単に使われがちなこの冠ですが、僕がクラフトコーラに願うのは、「クラフト/craft」を解釈し、コーラづくりに反映している、ということです。

さて、そもそも、「クラフト/craft」の意味とは何か。


手芸品。工芸品。民芸品。
−−−Oxford Languages

※Oxford Languagesは150年以上にわたり、世界50以上の言語の権威ある辞書を編集、発行してきた辞書を専門とする世界有数の出版社

そう、単なる手作りという意味ではないんです。「工芸」や「民芸」を語源に持つ。

工芸や民芸とは。「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる中川政七商店さんの言葉を借りてみましょう。


材料・技巧・意匠によって美的効果を備えた物品

工芸の中には信仰も祈りも縁起物も、たくさんの意味と価値観が含まれていた



つまり、機能性や美術性、郷土性、物語性、信仰、趣向など、地域や個人に根付く何らかをモノに宿し、それが伝わるほどの状態(意匠が美術効果を持つほど、むき出しに反映されいてる)になっていること。

ここが、クラフトを十二分に体現できているかどうかの、重要なポイントだと思います。

曖昧な線かもしれないけれど、
「郷土性、あるいは個人的な思想が至るところに反映されているのか」「あなたという人間が作った意味はあるのか」、

そんな切り口で向き合ってなお、これはクラフトコーラだと思えるかどうか。

クラフトコーラという名をつけていることの意義を果たせているのは、こんなコーラたちなのではないかと考えます。

少なくとも僕が開くドリンクスタンドでは、そう思わせてくれた銘柄を紹介したいな、と思いますし、振り返ってもそういうチョイスになっているな、と。

〆———

6.自分が考える、クラフトコーラの定義

上述した経緯を辿り、自分の中にはひとつの解釈を持つことができました。

とはいえ、今はクラフトコーラの可能性を閉じたくない。“定義”というよりも、「クラフトコーラであるからには、こうあってほしい」という願い”、です。


さて、一旦ここで、クラフトコーラの定義をまとめます。


1.🤔 天然の素材であるスパイスや柑橘等を複数つかって、甘さや苦さ、酸っぱさ、辛さなどを帯びた複層的な香りや味わいを引き出していること

(食品添加物をつかっていないこと)

→コーラの作り方の原点&予防医学の観点を持つ現代にわざわざコーラを作る意味は?の観点から。
→コーラを味覚で紐どいた井上豪希さんの考察から。
※おそらくベースとなる素材は、バニラビーンズ、シナモン、クローブ、カルダモン等のスパイス、柑橘、甘味素材(主は砂糖)あたり?
*各銘柄の原材料や作り手の話より


2.🤔機能性や美術性、郷土性、物語性、信仰、趣向など、地域や個人に根付く何らかをモノに宿し、それが伝わる(むき出しに反映されいてる)こと

→「クラフト/craft」の語源の観点から。


3.🤔割り方を飲み手に委ねられるポテンシャルを持ち得ていること(飲み方にクラフト性を持ち得ていること)

※シロップを活用できる or した状態であること。シロップ販売はわかりやすい例。シロップで販売している銘柄がRTD(=レディ・トゥ・ドリンク。広義には購入後そのまま飲める飲料)化したものも当てはまります。

→シロップで売られていたコーラの原点を踏襲する&他のカテゴリと比べたクラフトコーラの特殊性の観点から。


4.🤔個人や小さなチームが作り始めたこと

→知名度や流通体制があるから広がるのではなく、美味しくて、情緒的だから人を魅了し、広まってゆく。そして伝わるように試行錯誤する。そういった”クラフト”品としての広まり方をしっかり辿れるかどうかの観点から。


改めて振り返ると、そんなクラフトコーラに出会ったとき、こぞって魅了されてしまっているな、
と強く感じます。

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7.クラフトコーラの定義を思い描いてみて

作り手ではない分、飲み手の切り口で思いっきり表現してみました。

作り手であればこそみえる定義も、きっとあるのだろうし、クラフトコーラを解釈してみて、作り手でないことのコンプレックスをやはり感じてしまいます。

ただ、この数年間クラフトコーラ漬けになり、
メディアへの出演イベント開催を経たからこそ、感じたこと考えたことは、たしかにあります。


そんな自分が、「こうだったら嬉しいな」と素直に思うクラフトコーラ像について、わめいてみました。


最後に、おすすめのクラフトコーラの解釈をおすそ分け。

ご当地クラフトコーラの活動行う、ともコーラさんが考えるクラフトコーラ。

「クラフト / craft」の意の中でも、とりわけ郷土性から解釈した、素晴らしい考察です。こちらも、ぜひ。


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