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人生設計【読書感想文:村田沙耶香 生命式】

本を一冊読み終えた。
『生命式』という短編集だ。今回は全作まとめた感想を書こうと思う。


この作品には、世界の変化についていく人間と、それに疑問を持つ人間の二つが存在した。現代を生きる人間が、以前までは有り得なかった生活をしている。

でもその変化を作っているのも人間で、誰しもが良い方向に変わりたくて動いている。出来るだけ楽しく、明るく、安心して生きられる世の中を常に望んで生きている。だが、未来は誰にも予想が出来ないから、今行なっている全ての行為が良いことか悪いことかなんて誰も気付けない。今良いと思っているんだから良いんだろう、と我々は信じることしか出来ない。


この作品の題材は、今の世の中では誰も予想出来ない世界だろう。私も読んで数分で「そんなことあるかよ」と目を丸くしながら読み進めた。

でもそんなこと分からない。分からない中、人類がこんな変化をしないと決め付けている中だからこそ、この作品は光る。


私は計画性が無いと怒られることがある。

訂正されることがある。一緒に確認される時がある。先を見据えないと後悔することになると言われる。

でも先ってどこなんだろう、先というのは人によるのではないか。3秒後も1時間後も半年後も先ではないか。計画性のない私だって、あと2時間くらいしたらお風呂に入ろうと決めることだって出来るし、明日はまたいつもの時間に起きようと決めることも出来る。でもそれは、計画性のある人にとっての「先」ではない。

でもこの作品においての「先」はもっともっと遠い世界のことを言っていた。主人公が違和感を持っているのはここ30年間のことだ。30年間を「先」だと認識し人生計画を立てている人の中で、一体何人が100%その通りに動けたのだろう。絶対に誰もいない。なのに計画性が無いと怒られる意味が分からない。計画性が無いのは私と一緒だ。


この世は、人生は、何があるか分からないとよく聞く。その通りだ。半年前の私は、自分が仕事を辞めて、スマホにポチポチと日記を書いている人生を想像していなかっただろうし、この作品の主人公も、今現在の生活を幼少期の頃に予想出来てはいなかった。生きている人間も環境も変わるのだから、世界や自分自身が変わるのは、至極当然のことだと教えられた。今を生きていけるのは今だけなんだと教えられる。幼少期に過ごしていた「あの日々」なんてことは忘れて、段々と今に染まっていく主人公が滑稽で、素直だった。


衝撃的な題材から、人類の変化を学び、知らされたことが1番の衝撃である。

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