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【建築家の頭の断面図】「味がある」「深みがある」という表現に隠されているものとは?(リノベ)

引渡しして約1年たったお宅に訪問したんだけど、それがまぁ素敵で・・・
設計者は基本完成までしか見る機会がないのだけど、大正期の和洋折衷を目指したデザインだけあって、味がある・・・趣がある・・・

ここでちょっと疑問。
味がある、深みがある、趣がある・・・要は古典で言う「いとおかし」。
これを具体的に細分化、言語化したときにどうなるのかが気になった。
要は「味わい・深み」って何という話。
これを今回深堀して、デザインの糧にしようと思う。

さてその前に、今回訪問した物件の特徴的なものを紹介しようと思う。

上部には昭和期の孔雀板絵欄間を設置しながら両サイドの引き戸も昭和期の欅玉杢黒格子戸を計画している。
ひょうたん型の古建材門扉と明治〜大正期の欅蔵戸を玄関戸として採用した。
寝室の檜書院障子と桝格子の収納建具

こんな感じで味わい深いものが多い物件だ。
この建材は全て明治・大正・昭和の古建材でなりたっている。
クライアントの好みから、いわゆる「大正ロマン」を表現する必要があった。クライアントの協力もあり、和洋折衷の良い空間ができたのだけど、これって正直過去一番むずかしいデザインだった。
大正建築の時代背景を見ると、和風から洋風へ変わる時。
それぞれ確立された建築・インテリアを融合させる難しさ。失敗するとちぐはぐになる。僕の解決策は「本物を使う」だ。
本物同士って実はあまりケンカしない。インテリアに関してだけだが自然と調和する。
この考えに至るまで、すごい時間がかかった・・・

なかなかこの洗面のデザインは勇気がいると思う

話しはズレたが、この「味わい」についてまずは簡単なイメージから紐解いていこうと思う。

  • ・今にはないデザイン、流行ではないデザイン

  • ・少し傷があって複雑な機構

  • ・繊細でありながら見た目の重みがある

見た目から考えると意匠的には「シンプルではない」「どっしりした見た目」ということになる。

たぶん明治、大正時代では、「良いもの=手の込んだもの」という考えがあったのだろう。

そしてその見た目には「年数」を感じる。
言葉で伝えなければわからないこの「年数」を、視覚的に醸し出している。

この「年数」が重要だと感じた。
現在のトレンドとしてはどんなものでも軽量化、簡素化することを良しとする傾向がある。「ミニマル・シンプル」という言葉が正義だと信じ込んでる節がある。

その真逆なのだろう。
良いものには質量を感じ、それを手に取った時の重厚感が「ありがたみ」と名称を変えて僕たちに訴えてくる。

それを人は「味がある」「深みがある」というのではないだろうか・・・

これが正しいとして考えた場合、
社寺仏閣を見ると・・・どれも重そうでそれが重厚感を感じる。

まず最初に僕が導き出した答えは
「視覚的な質量を感じる」だ。

それでは軽いものはどうなのか?
ここで「侘び寂び」を考える。

侘び寂びを調べてみると・・・

「侘び」とはつつましく、質素なものにこそ趣があると感じる心のこと。一方、「寂び」とは時間の経過によって表れる美しさを指します。この世のものは時が経つにつれ汚れたり、欠けたりして変化しますが、それを劣化と否定的にとらえず、変化が織りなす多様な美しさを「寂び」と呼び、肯定するのです。

出典:https://www.the-kansai-guide.com/ja/

日本人は「侘び寂び」ということが好きだ。
「はかなさ」「壊れそうな繊細さ」「左右非対称」
こういうものに、心惹かれる傾向がある。

これは「禅」や千宗易(センソウエキ):(千利休のこと)の茶道の考えや茶室の考えに基づくと思う。

質素が良い、装飾は好まない。
この考えが美徳と位置づけられてきた日本は、このことも味わい深いと感じる。

何かがおかしい・・・

冒頭では質量を感じる物が「味わい・深み」と言っていたが、
ここにきて質素なものが「味わい深い」と言っている。

この両極端な内容が共に「味わい深い」となると、見た目ではない何か他の定義があるのではないかと思った。

そしてこういう時に参考になるのは・・・英語翻訳だ。

日本語を英語に変える時は言葉の意味を深く考えるはず。

ネットで「味わい深い」を英語翻訳した場合の検索をみると、
「resonance」という言葉が出てきた。
これはどうやら芸術作品などに使われる言葉らしい。

これから考えると簡素化されたシンプルなものでも、複雑な装飾があっても、そこに「芸術的要素があり、なかなか真似できないもの」という解釈ができる。

でもここで僕が感じた「質量を感じる見た目」をどうしても捨てきれない。
「重厚感」という言葉があるように、軽いものより重い見た目の方が、深みが出るのではないだろうか・・・

これってどういうことだろう・・・

僕の中でひとつ結論が出た気がする
それは、
「手で触れてみたいかどうか」ということだ。

確かに昔の建築や手の込んだものは、なんとなく手で触りたくなる。

昔の寺院や茶碗など、なぜか手で触りたくなる。

要は「触覚」を働かせたいかどうかということだ。

視覚からの情報から触覚へ誘発するもの。
それが馴染みのない手触り、質量の場合、そこには驚きがあり、新しい発見によるうれしさが生まれ、これをまわりと共有したい・・・となる。

確かに今回訪問した戸建てリノベのお宅も、意味もないのによく触ってた・・・と今になって思った。

どう?この写真・・・
単純に木のつっかえ棒みたいな鍵だけど、一度開け閉めしたくならないかなぁ?

僕は訪問当日、雨だったけどわざわざ開け閉めを確かめてしまった。

重さも複雑な造りもざらざら感も全て目で見た時の好奇心をそそるもの、いわゆる「触りたくなるもの」ということだ。

これが正解かはわからないけど、現時点での僕のデザイン的アンサーは、
「触覚を刺激するもの」と位置付けようと思う。

これを基に建築で試しながら検証していきたい思う・・・

今回はちょっと退屈だった人もいるかもしれないが、人の考えていること、結論を導き出すまでの過程を楽しんでいただけたら嬉しいです。

今回はここまで。
ありがとうございました。


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