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091 日本の経営者は大きな絵を描かない?

例えば、こんな話があります。
いま、タブレットPCは教育の場などにも導入されるようになって、大きな市場を獲得しています。この分野を切り開いたのはアップル社ですが、実は、タブレットPCが商品として販売される数年前、ある日本の企業の技術部門で、キーボードをなくした液晶のPCが試作されていたそうです。まさにタブレットPCです。
「これは面白い」ということで技術部門から、商品開発の提案がなされたそうですが、トップを交えた商品開発会議では、新製品としてゴーは出されなかったそうです。数年後、アップルからiPadが発売され、ヒット商品として市場で飛ぶように売れていくのを横目で見ながら、技術者たちはやるせない気持ちになったといいます。
 
提案を受けたマネジメント層は、こうしたものへの需要があるという予測ができなかったのでしょうか。リスクを恐れたのでしょうか。もしそうだとすれば、経営者としては失格ですが、そうした経営者を評価する機能が、内部にあるのでしょうか?
イノベーションを興すような新製品が日本の企業から提案されない、ものづくりがガラパゴス化している・・・と言われる実体はむしろ、日本の経営者のこういう姿勢にあるのではないかと思います。
全てがこの調子で、新製品が生まれなくなっているというわけではないと思います。しかし、この話しを聞く限り、問題はものづくりではなく、高度なものづくりの技術を活かせないマネジメント力にもあると思います。
日本の企業経営者で偉大な業績を上げた経営者として、松下幸之助、本田宗一郎、井深大と盛田昭夫、稲盛和夫らの名前が挙げられます。もちろん名を挙げるべき人は他にもいますが、彼らはいずれも、ゼロから事業を立ち上げた経営者です。
成長へのプロセスで、失敗を重ねながら幾度かの危機を乗り越えて大きな成功を収めてきました。本田宗一郎は、「99パーセントの失敗があって、はじめて1パーセントの成功がある」と言っています。高い目標を描き、そこに到達することをめざして果敢にチャレンジし、成果を上げてきたわけです。決して失敗せずに高みに到達したわけではありません。たぐいまれなリーダーシップをもって企業を創業し、大きく育ててきました。
リーダーシップ研究で知られる神戸大学教授の金井壽弘はリーダーシップの要件として、大御所の三隅二不二が提唱したPとMを上げ、不動の二次元と紹介しています(①『リーダーシップ入門』金井壽弘、日経文庫)。
・p:performance 高い目標を掲げ、具体的な方策を提案・実現する
・M:maintenance 目標に向けて計画を更新し、躓く仲間を勇気づけ支援する
の2つです。
創業者たちは、確かにこうした資質をしっかり発揮して企業を育ててきたようですが、残念ながら、成功した企業を受け継いだ経営者の中には、大きな成果を守ることに精いっぱいで、高い目標を掲げてチャレンジするという精神をうまく発揮できない人たちもいるように思います。サラリーマン社長と呼ばれる経営者の中には、経歴を通して失敗しなかったことを自慢する人たちもいます。
新しい領域へのチャレンジを積極的に行い、高い目標を掲げて行動するビジネスマンの宿命は、失敗するということです。企業内での経営者レースでは、この失敗は致命傷になることがあります。失敗しなかったビジネスマンがビジネスよりも人間関係でTOPに昇り詰めることもあることで、そうした経営者は、意欲・目標・理想という面でチャレンジ精神より慎重な行動・判断を優先しがちです。
イノベーションが生まれない要因に、失敗を恐れるあまり、大きな絵を描こうとしない経営者が増えているという要因もあるのではないかと思います。アラビアンナイトと一寸法師の空想スケールの違いを思い出させるような話でもあります。

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