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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊸

「初めて愛情を注いだ小さな命」

 
この頃、15歳になる長男たつのりくん(トイプードル)は心臓が弱り、
お散歩は行かないようにと獣医から言われ、
さらに、ひどい歯槽膿漏で度々口から出血するという状態でした。

仕事から帰ると娘が
「ママ、タッチがまた口から血が出てるよ」と言い
急いで、かかりつけの病院へ連れていくという繰り返しです。
「もう病院は連れてくるのもかわいそうだから、お家で静かに過ごさせてあげてください」
先生にそう言われ、病院通いはやめました。

だんだん食欲もなくなってきましたが、トイレだけはちゃんとおしえて
夫が支えてトイレでおしっこをする姿に、なんて偉いんだろうと、
こちらが励まされる毎日でした
何か食べてくれないかと、
ある日ひき肉を煮てご飯に混ぜてあげたら
珍しくたくさん食べてくれました
「よかった、これならまだ大丈夫かも」と安心したのですが
それからはぱったり何も食べてくれなくなり
10日目に実家の両親が会いに来てくれた日の夜
たつのりくんは天国へ旅立ちました。

夕食のかたずけが終わって、いつもの通り
「たっちくん、お待たせ」
と抱っこタイム、すると、
私の腕の中で
「げほっ」と息を吐き
「パパ!たっち君が行っちゃう」
と叫んでいるうちにすーっとたっちくんの身体から力が抜けました
 
初めて愛情を注いだ小さな命
15年以上一緒に生きてきた
いつでも励ましてくれた、
そして、慰めてくれた
ごめんね、娘たちが生まれたときはさみしかったね
いつか天国で会ったら、今度はずっと抱っこさせてね
それまで待っててね
 
命が終わる瞬間を生まれて初めて看取りました。
 2004年5月26日 たつのりくん15歳2か月でした。
 
「ママ、見て」
「え?」
「あ、可愛い」
「たっちくん?」
娘たちが生まれた時からずっと一緒だった
長男たつのりくん(トイプードル)が
天国へ旅立って半年ほどが過ぎていました。

週末に家族で買い物に行ったショッピングセンターでのことです
なんとなく覗いたペットショップで娘たちが釘付けになったのは
サークルの中で尻尾を振りながら、こちらをじっと見ていた
真っ白なトイプードルでした。
赤いリボンを首に巻いて、元気いっぱい愛嬌をふりまいています
「かわいい」
家族全員で一目惚れです。
けれども、夫は
「たっちくんがいなくなって1年もたっていないじゃないか」
「まだ早いよ」
と背を向けます。
「そうだね」
とその日は後ろ髪を引かれるおもいで家にかえりました
が、
次の週末も私たち家族はまた
そのショッピングセンターへ向かっていました。
車の中で
「もし、あの子がまだいたら、どうする?」
「うんめいだよね」
「きっと、たっちくんの生まれ変わりじゃない」
「そうだよね、ママ」
「そうかなぁ」
「ぜったいそうだよ」
ずっと、そんな会話が続いていました。
夫は黙ってハンドルを握っていましたが
駐車場に車を止めると、私たちは真っすぐにペットショップへ
「いるかな」
「いないかな」
娘たちが走っていきます。
「あ、いた」
あの真っ白いトイプードルが、赤いリボンを首に着けて
今日もサークルの中で遊んでいました
こちらに気が付き、尻尾を振って寄ってきます
うんめいです

 

 


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