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「いつもいいことアサヒから」。アサヒビールNFTプロジェクトの大きなチャレンジと驚きを生む情熱の舞台裏

今回は、アサヒスーパードライのブランド誕生36年を記念して36点のNFT(※1)コレクションを制作した「ASAHI SUPER DRY BRAND CARD COLLECTION」について、プロジェクトに関わったアサヒビール・玉手健志氏、電通・森田章夫、糸乘健太郎に話を聞きました。

なぜアサヒビールがNFTプロジェクトに乗り出したのか、電通が与えた価値は何か、今回の企画が会社にもたらしたものとは?

(※1)「Non-Fungible Token(=非代替性トークン)」の略称。ブロックチェーン技術を活用した代替不可能な唯一無二のデジタルデータのこと


国内NFT領域のファーストペンギンとなるべく、プロジェクト始動

-今回の「ASAHI SUPER DRY BRAND CARD COLLECTION」プロジェクトとはどのような内容だったのでしょうか。

玉手:自社の主力商品である「アサヒスーパードライ」のブランドが誕生してから、2023年で36年を迎えることを記念したプロジェクトです。数字にちなんで、36点のNFTコレクションを制作し、2023年3月17日から世界最大級のNFTマーケットであるOpenSeaでNFTを販売しました。もともとWeb3やNFTに興味があったこともあり、今回の企画をメインで担当しました。
 
ビジュアルには過去の広告素材を活用し、ブランドコレクションの形で構成。アイコニックな缶のデザインを押し出し、一目であのブランドだと認知してもらえるように工夫しました。価格は35点を0.1 ETH (※2)(2万5000円)で、1点のみアサヒビールの工場見学ツアーの特典付きで5 ETH (12万5000円)にて販売しました。

 (※2) ETHはイーサと読み、仮想通貨「Ether(イーサ)」の通貨単位を意味する

-集めたくなるようなデザインでかっこいいですね。企画はどのようにして立ち上がったのでしょう?

玉手:イノベーションのために仕事と直接は関係のないことを20%行う「イノベーションデー」がきっかけでした。20%を仕事以外に使うときに何をしようかと考えて、どうせなら自己研鑽だけでなくアウトプットに到達したいと思ったんです。
 
そこでデジタル方面で何かないかと考えたときに、NFTを思いつきました。当時はNFTブームが高まっていて、海外のビールメーカーがNFTを出すなど各社活発な動きがあり、かなりいいアウトプットが出てきていた時期で。少なくとも日本ではアサヒビールが先行してその領域に乗り込みたいと考え、NFTをテーマにした企画がスタートすることになりました。開始直後は、20%で考えていたことがここまで大きな話になるとは思っておらず、驚きましたね。
 
森田:私たち電通は、2022年3月にアサヒスーパードライのリニューアルが実施される前後のタイミングで玉手さんからお話をいただきました。玉手さんとは2016年ごろから一緒にお仕事をさせていただいていたこともあり、この企画もぜひお受けしようと。
 
キャラクターCXに強い糸乘も加わり、国内のみならず海外にもブランド価値を広げていくべく、海外のWeb3層の若者に向けたグローバルNFTで話がまとまりました。

-なるほど。苦労したポイントがあればお聞きしたいです。

玉手: NFTは大きなチャレンジだったので、紆余曲折の連続でした。NFTの販売自体はマーケティングになるしブランディングになるという前提のもと、綿密に議論を重ねました。海外にどのようにブランドを打ち出すかの検討と海外連携、社内の反応への打ち返しなど、とにかくやることが多かったのです。しかし、電通メンバーを含めた密な連携で乗り越えました。
 
また、苦労したわけではないのですが、加熱しすぎたNFTブームが制作時にはわりと落ち着いていた点については、社内にも丁寧に説明しました。この落ち着きは必ずテクノロジーが通る道であり、私たちの準備していることには意義がある、だからチャレンジしたほうが今後の会社のためになる、と。

-玉手さんの熱量がすごいですね。

玉手:アサヒビールの社風も背中を押してくれました。現会長の塩澤賢一は「いつもいいことアサヒから」とよく言っています。それが私たちの行動に染み付いていて、アサヒビールのカルチャーになっているんです。だからこそ国内のファーストペンギンとして、NFTという新規領域にチャレンジできましたし、非常に風通しのいい会社だと思います。

-その他、電通側で苦労したポイントがあれば教えてください。

糸乘:私はデザイン面で関わりましたが、なかなか大変でしたね。NFTといえば一般的にキャラクターものが人気ですし、私も最初はキャラクター系で提案しました。ですが、「アルコール商品なのに若年層向けに見えてしまう(未成年者の飲酒を助長する可能性がある)」ためキャラクター活用という手法はNGだったのです。
 
そこからカード型などいろいろ検討を重ねながら、過去の広告素材を使った今のブランドコレクションの形になりました。モノとしても一目でスーパードライだとわかり、商品の歴史が伝わるような秀逸なNFTになったと思います。価値を上げるために、質感や動き、NFTらしさにこだわり、入稿〆切ギリギリまで作業していました。

森田:ラインナップしたときに缶が並んでいるように見えるのも秀逸だと思います。広告でクリエイティブとして優れているものでも、NFTの世界では何が勝つかわからないので、そこも難しいところではありました。こうやってアサヒビールとタッグを組ませていただいたおかげで、私たちもNFTについての知見が広がったと思います。

新しい世界に踏み込んだからこそ、得られた景色

-販売が始まって、反響はいかがでしたか?

玉手:とてもドキドキしていましたが、なんと開始18分で36個すべてが売り切れました。

1年2ヶ月の数々の苦労が報われた瞬間でしたね。社内からもすごく褒められましたし、進行過程で厳しい意見を頂戴していた方からも「おめでとう」という連絡が次々に届いて、胸が熱くなりました。

NFTかつ海外の特性上、詳細な属性は読めなかったのですが、想定していたWeb3のNFTに慣れ親しんだ方々に購入いただけたようです。SNSでは「ついにスーパードライがNFTに!」というコメントも見られ、アサヒビールのチャレンジがしっかりと認められてうれしかったですね。
 
森田:今回用意したのは36個だったのですが、売り切れと同時に「もっと作っておけば!」という思いも当時は正直ありました。けれど、希少性を生むという意味で考えれば、36個で成功したことは意義深かったのではないでしょうか。
 
糸乘:今回共にプロジェクトに関わった、電通UKのメンバーでグローバル展開担当者のアレックスも完売の結果には非常に驚いていました。「アサヒビールがNFT分野において、今後長期的にどのような戦略的アプローチを取れるかを計画する必要がある」とコメントしてくれました。

-手応えが大きく、今後の展開についても貴重なスタディになりましたね。

糸乘:本当にそう思います。社内のNFTに詳しい人にヒアリングしたところ、NFT周りのWeb3の世界で活動する方たちは「大手企業のアサヒビールが自分たちの世界に来てくれた」と温かく迎え入れてくれたそうです。誰しもが知っているブランドが新しいテクノロジーを使って勝負することは、打ち手側にとっても消費者にとっても大きな価値があります。やはり新しい世界に踏み込まないと、お客さまの心に訴えかけることはできないのかもしれないという実感がありました。

お客さまの感動が一番のCX的価値

-今回の「ASAHI SUPER DRY BRAND CARD COLLECTION」プロジェクトについて、振り返りをお願いします。

玉手:大変なこともありましたが、いい結果になって満足していますし、アサヒビールとしてNFTという新領域に取り組む意義があったと思います。私たちが常に考えているのは、お客さまに「Wow!(ワオ)」と驚き、楽しんでいただける状態をどう作るか、でした。その中で、今回のチャレンジは会社にもお客さまにもインパクトがあり、改めて社内外に「アサヒビールはチャレンジする集団」だということを伝えられたのではないかと思います。

-結果はもちろんですが、「いつもいいことアサヒから」という言葉が言行一致していて、アサヒビールの強いカルチャーも感じました。

玉手:ありがとうございます。挑戦することが当たり前というカルチャーを自分とその周りに実装する意味でも大きな成果がありました。挑戦には失敗の恐怖がつきまといますが、最初のボールを常に蹴り出せるような土壌を作っておくと、今後もっと新しいことに挑戦できるはずです。

-今回のプロジェクトについて、CXクリエイティブ的な側面で気づきがあれば教えてください。

玉手:私はお客さまが感動してくださったことが一番のCX的価値だったなと思っています。振り返ればNFTを使うことが必須だったわけではありませんでした。最先端の技術で、なおかつ社会に実装されそうなものに商材を当てはめたものがNFTだったというだけで。軸はいつもお客さまにどうしたら驚いてもらえるかで、ブレはありません。その軸がきちんとあると、チームビルディングの視点で自分も周りも意思統一が容易だと思います。
 
森田:今回も玉手さんの強い意志があったからこそ、一丸となって取り組めましたし、困難だけど楽しい、実りある結果になったのだと思います。この場を借りてお礼を言いたいですね。

-最後に今後の展望についてひとことお願いします。

玉手:私は普段から「〇〇×スーパードライ」でどのようなアウトプットが生まれるかを常に頭の中で考えるようにしています。ですので、また今度新しいプロジェクトで皆さんを驚かせるのが楽しみです。今後もチャレンジを続け、そしてそのカルチャーを社内外に実装させ、新しい「Wow!」を作っていければと思います。

* * *

今回は、アサヒスーパードライのブランド誕生から36年を迎えることを記念したNFTコレクション「ASAHI SUPER DRY BRAND CARD COLLECTION」の事例をご紹介しました。
 
お客さまの驚きを生むCXは、個人の情熱と失敗を恐れないチャレンジから生まれる、そしてそのチャレンジは企業の強いカルチャーが支えているのだと感じました。

プロフィール

アサヒビール:玉手 健志(たまて・たけし)

マーケティング本部
ビールマーケティング部 担当副部長
2009年アサヒビール入社。営業職、広告宣伝を経験後、新設されたデジタルマーケティング部の創設メンバーとしてLINEやTwitter、FacebookほかSNSコミュニケーション全般の設計と運用を担当。現在はビールマーケティング部に所属。「スーパードライ」のブランド担当として販促業務や開発業務に従事している。

電通:森田 章夫(もりた・あきお)

カスタマーエクスペリエンス・プランニング・センター
クリーティブ・ディレクター
ブランディングコミュニケーション、PR、デジタル、イベントなど領域にとらわれないノーラインで戦略からクリエーティブディレクションまでを担当。国内外広告賞多数受賞。

電通:糸乘 健太郎(いとのり・けんたろう)

カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター
アート・ディレクター
キャラクターを活用したコミュニケーションで幅広く活躍。
ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」、テレビ東京「ナナナ」、BODY SHARING ROBOT「NIN_NIN」などのキャラクターデザインを手がける。

Dentsu UK :Alex Hamilton(アレックス・ハミルトン)

Dentsu Creative UK
イノベーション責任者
ロンドンを拠点とし、英国市場におけるメタバース/Web3関連のプロジェクト立ち上げを推進。過去には、AB InBev 、Asda、Clarins、Diageo、LEGO、Swarovski といった多国籍企業に向けて、イノベーションプロジェクトを提案。
自身の知見と経験を活かし、カンファレンスなどにも登壇している

※所属・役職は取材当時のものです。

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