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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(5)

 不穏な空気を感じ、アズキが目を覚ます。
 巨体をゆっくりと起こし、アケに近寄る。
 岩のように大きく、背中を燃やした異形の猪に武士達の顔に戦慄が走り、腰の刀に手をかけ、今にも斬りかかろうする。
「やめろ」
 浅黒の武士が左手を伸ばしそれを制する。
「お前達では勝てん」
「アズキ……やめて」
 アケも顔だけをアズキに向ける。
 アズキは、武士達を牽制するように睨みつけたままアケの言うことを聞いて動きを止める。
「お嬢様……」
 ジャノメ食堂の出入り口にマンチェアを纏った家精シルキーが立って不安げにアケを見ている。
 浅黒の武士は視線を動かしてアズキと、家精シルキーを見る。そしてアケに視線を戻す。
「随分と楽しく過ごされていたようですね。ジャノメ姫」
 浅黒の武士は笑う。
「自分の罪も忘れて……」
 蔑むように。
 アケの表情が青ざめる。
「……なんで貴方たちが……ここに?」
 アケは、震える声を絞り出して問う。
「大臣のご命令です」
 浅黒の武士は口元を綻ばせる。
「貴方が猫の額ここに来てからなんの音沙汰もないので心配されてたんですよ」
「お父上様が⁉︎」
 自分の心配を⁉︎
 アケは、胸元をぎゅっと握りしめる。
 喜びが小さく膨れ上がる。
 しかし、次の瞬間、それは無慈悲に弾ける。
「まだ、死んでないのか……」
 アケの蛇の目が震える。
 浅黒の武士の口元に笑みが浮かぶ。
 嘲りの笑みが。
「黒狼と一緒にさっさと死ねばいいものを」
 浅黒の武士の目が暗く光る。
「この……親不孝者が」
 すとんっ。
 アケは、倒れるようにその場に座り込む。
 死ねばいい……。
 呼吸が荒くなる。
 蛇の目から涙が溢れ出る。
 浅黒の武士は、冷えた目でアケを見下ろす。
 他の武士達は、アケの蛇の目から零れ落ちる涙を顔を引き攣らせて、気味悪そうに見る。
 フシュウー。
 アズキが目に怒りを蓄えて武士達を睨みつける。
 家精シルキー金糸の髪が逆立ち、屋敷が大きく震える。
 武士達は、二人から放たれる気迫に恐れ慄く。
 しかし、浅黒の武士は平静に、冷酷にアケを見る。
「まだ少しは貴方を子と思っていてくれたみたいですよ」
 浅黒の武士はにっこりと微笑む。
「良かったですね。化け物」
 アケの表情に絶望の声が迸る。
 刹那。
 アズキが地面を蹴り上げる。
 二本の太く鋭い牙が浅黒の武士に迫る。
 そのあまりの速さに武士達は反応出来ない。
 浅黒の武士の表情にも戦慄が走る。
 が・・・。
 破裂音が冷えた空気を裂く。
 鮮血が草原に飛び散る。
 浅黒の武士の唇が歪み……笑う。
 二本の牙の先端が浅黒の武士の甲冑に触れる。
 それだけ。
 アズキの巨体が崩れ、倒れる。
 地面が震える。
 アズキの身体から鮮血が流れる。
 アケは、口元を押さえ、悲鳴を上げる。
「アズキィィィ!」

#長編小説
#アズキ
#武士
#ジャノメ姫

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