マガジンのカバー画像

「疾れイグニース!」

49
「#週刊少年マガジン原作大賞」で奨励賞を頂きました作品です。 ドラゴンレースに懸ける青春ものです。
運営しているクリエイター

記事一覧

「疾れイグニース!」第48話

「疾れイグニース!」第48話

「しかし驚きましたよ、まさかCクラスが全員合格とは……」

 教官室で仏坂が鬼ヶ島にしみじみと語る。

「……交流レースの好成績が大きな決め手となった。四人が一着、他の四人も二着というのは過去を見ても例がない。しかも関西へ乗り込んでいってだからな」

「上の方は何か言ってきていないんですか?」

「無くはないが……最も優先されるべきなのは現場の意見だ。ここぞというところの勝負強さ、騎乗技術、レース

もっとみる
「疾れイグニース!」第47話

「疾れイグニース!」第47話

「やったよ! 炎ちゃん!」

「おめでとう、真帆!」

「うん! でもまさか一着だなんて……」

「良いレースをしたんだから当然の結果だ」

「うん! ありがとう!」

「! ま、真帆⁉」

 真帆が周囲の目も構わず、炎仁に思いっ切り抱き付いてきたので、炎仁はとりあえずお互いの体を引き離す。真帆は不満気な声をあげる。

「あ……」

 炎仁が努めて冷静さを保ちながら尋ねる。

「ど、どういうつもり

もっとみる
「疾れイグニース!」第46話

「疾れイグニース!」第46話

「勝ちましたわ!」

「おめでとうございます」

 満面の笑みを浮かべ引きあげてきた飛鳥を真帆は迎え入れる。

「これでCクラスは2連勝、良い流れが出来ています! 紺碧さんも頑張って!」

「は、はい! ベストを尽くします!」

 真帆は飛鳥を見送る。

「気に入らんな……」

「え?」

 真帆が後ろを振り返ると、そこには自分よりも一回りほど小さい女の子が立っている。ややダボダボだが、勝負服を着

もっとみる
「疾れイグニース!」第45話

「疾れイグニース!」第45話

「勝ったよ~♪」

「実にお見事なレースでしたわ」

「飛鳥ちゃんも勝ってね~」

「もちろんですわ」

 翔を飛鳥は見送る。

「これはこれは、関東Cクラスの撫子飛鳥さんじゃありませんか?」

 撫子グレイスがわざとらしく大声を出して近寄ってくる。

「……ごきげんよう」

「ごきげんよう。しかし、驚きましたわ。貴女様がAクラスではなく、Cクラスだなんて……撫子の本家ではどのようなことになってお

もっとみる
「疾れイグニース!」第44話

「疾れイグニース!」第44話

「ふ~危ない、遅れるところだった……」

「お嬢が慌てていたぜ、天ノ川君はまだですの⁉ってな」

 嵐一が笑う。翔が唇を尖らせる。

「飛鳥ちゃんだって順番を勘違いしていた癖に」

「……負けちまったよ」

「二着は誇っていいことだよ」

「一着じゃなきゃ一緒だ」

「今回の交流レースは地方勢も例年以上に侮れないメンバーを送ってきているね」

「ああ、それより二着が続いているこの流れを変えること、

もっとみる
「疾れイグニース!」第43話

「疾れイグニース!」第43話

「まさか一回転ジャンプで交わすとはな、見せ場作ったじゃねえか」

「……引き立て役としてな!」

 嵐一の皮肉に青空は言い返す。

「元気そうじゃねえか」

「落ち込む柄だと思うか?」

「いいや」

「流れ自体は悪くねえ、あとはきっかけさえあれば……頼むぜ旦那!」

「言われなくてもやってやるさ」

 嵐一は青空を見送る。鳳凰院金剛が嵐一に話しかけてくる。

「先日は世話になったな」

「アンタ

もっとみる
「疾れイグニース!」第42話

「疾れイグニース!」第42話

「へっ、なんだよ、つまらねえな」

 レース後、控室に戻ってきた海の顔を見て青空は天を仰ぐ。

「……なにがですか?」

「惜しいレースだったからな。悔し泣きしてたら慰めてやろうと思ったのによ」

「……悔しいですが、貴女の前では絶対に泣きません」

「へ、そうかよ」

「それより朝日さん、この後、教官から最終確認があるかとおもいますが……どうせ細かな指示を出されても分からないでしょう?」

「そ

もっとみる
「疾れイグニース!」第41話

「疾れイグニース!」第41話

「負けてしまったよ……」

「良いレースでした、胸を張って下さい」

 肩を落とすレオンを海は励ます。

「ありがとう、三日月さんも頑張って」

「ええ」

 レオンを見送ると、華恋が話しかけてくる。

「……三日月海さん、こないだはどうもおおきに」

「ああ、いえ、別に大したことではありません」

「そんなことないですわ、助かりました」

「大変そうですね」

「ホンマですわ。なかなかプライベー

もっとみる
「疾れイグニース!」第40話

「疾れイグニース!」第40話

「金糸雀君」

「は、はひ⁉」

 パドックで騎乗前に仏坂に声をかけられたレオンの返事は裏返った声になった。

「緊張している?」

「す、すこひだけでふ!」

「うん、大分緊張しているね……そう言えばさっき控室で朝日さんに言われたんだけどさ、『金糸雀が緊張しているようだったらこの言葉を伝えてくれ』って……」

「え?」

 スーツ姿の仏坂がレオンの耳元で囁く。

「『夏合宿……大凧……購入履歴は

もっとみる
「疾れイグニース!」第39話

「疾れイグニース!」第39話

「うおおおっ!」

「舐めんなワレコラ!」

 兵庫県にある関西競竜学校のコースで疾風轟騎乗のハヤテウェントゥスと火柱ほむら騎乗のマキシマムフレイムが激しく競り合いながら駆け抜ける。轟が叫ぶ。

「よっしゃー! ワイの勝ちや!」

「ちっ、もう一回や!」

「おう、なんぼでもやったらあ!」

「……そこまでです」

 ナデシコフルブルムに騎乗する撫子グレイスが二人を制止する。

「なんや、グレイス

もっとみる
「疾れイグニース!」第38話

「疾れイグニース!」第38話

「さて、今日は大事な話があるよ……」

 12月もいよいよ残り後数日に迫ったある日、仏坂がいつになく真面目なトーンで話し始める。皆も緊張感を感じ、無言で聞いている……一人を除いて。

「zzz……」

「天ノ川君が寝ています」

「……起こしてくれる?」

「……」

 海は端末を天ノ川の耳元に近づける。

「うわっ⁉」

 翔が跳ね起きる。青空が驚く。

「おおっすげえな! 今までバイクの爆音と

もっとみる
「疾れイグニース!」第37話

「疾れイグニース!」第37話

「もう年の瀬……一年経つのは早いですわね……」

 飛鳥が寮の部屋で呟く。

「年明けすぐに阪神レース場で『交流レース』か」

「うん、仕方がないことだけど、今年の年末年始は休みがないね」

 真帆がカレンダーを見ながら、青空に答える。

「アタシ、関西方面って行ったことないんだよな。京都とか大阪に行けねえかな?」

「……ちょっとそういう時間は無さそうだね」

「そっか~つまんねえなあ~」

 

もっとみる
「疾れイグニース!」第36話

「疾れイグニース!」第36話

「文化祭?」

「毎年この時期に近隣の専門学校で行われるものなんだけどね。色々趣向を凝らした出し物があってなかなか面白いんだ」

「これが何か?」

 チラシを手にした海が仏坂に尋ねる。

「気晴らしも兼ねて、皆で行ってくると良いんじゃないかな?」

「皆……Cクラス全員で、ですか?」

「そう」

「……確かに今週の休日と重なりますが、全員は無理です。厩舎の掃除やドラゴンの世話もありますから」

もっとみる
「疾れイグニース!」第35話

「疾れイグニース!」第35話

「さて、とうとうこの日が来ましたね……」

 10月末、東京レース場のスタンドで海が呟く。

「結構客が来ているな……」

「関係者だけかと思ったんだけどな」

 周囲を見回して、青空と嵐一が呟く。

「模擬レースですからね、お客さんにもある程度入ってもらって、実際のレースのような雰囲気を再現してもらうのが狙いです」

 海が淡々と説明する。その隣で真帆が口を開く。

「こういうことを聞くのってな

もっとみる