私は大学生になり、東京に行く回数が激増した。

様々な場所に住む友達と出会う機会が増えたし
東京で一人暮らしを始める友達も多かった為
遊ぶ場所は東京にシフトしつつあった。
バイトを始めてお金に多少ゆとりができたことも大きい。

また、私が車より電車移動が好きだったこともある。
地元は車がないと不便だが
東京は電車移動が便利だし
隣駅まで近いから徒歩でも移動できる。

　
東京にはお洒落な場所や素敵な場所がたくさんあって
やりたいことや食べたい物が溢れていた。

田舎者の私や
同じく田舎者の友達や
地方から進学の為に一人暮らししていた友達は
長い受験勉強を終え
東京ではっちゃけた。
東京で遊びたくて堪らなかったのだ。

　
私は東京でも特に下町が好きだった。

新宿や渋谷、池袋、原宿は友達から誘われたら行く場所で
私は上野や浅草、谷中、柴又といった下町にハマり
友達を誘ったり
一人で行ったりした。

正直、私が下町が好きだったり、行きたがったのは
雰囲気が好きだからというのもあるが
こち亀の影響も大きい。

私はこち亀を全巻所持しており
両さんが行った場所に行きたがったのだ。
聖地巡礼とも言える。

　
　
私の高校時代の親友は大学進学を機に東京で一人暮らしを始め
更に親友も下町が好きだった。
親友はこち亀は未読だが
たまたま下町の雰囲気が好きだった。

私と親友は性格や見た目は似ていないが
惹かれる場所は似ていた。

　
　
そんな親友に、私は「巣鴨に興味があるんだけど、一緒に行かない？」と誘った。
大学二年生の時である。
親友は一時期、巣鴨の近くに住んでいた。

巣鴨はおばあちゃんの原宿と言われている。
若者が積極的に行く場所ではないのかもしれないが
活気があるらしい巣鴨に私は一度行ってみたかった。

　
「巣鴨行きたいの？うちから近いし、一緒に行ってみようか。」　　

　
親友は快く了承してくれた。
私は好奇心旺盛で、行きたい場所ややりたいことが溢れていた。
親友はそんな私によく付き合ってくれたし
一緒に楽しんでくれた。

　
　
巣鴨駅に到着しただけで私はテンションが上がった。
噂の巣鴨、念願の巣鴨である。

巣鴨駅の近くには
巣鴨地蔵通り商店街がある。

　
看板にデカデカと「巣鴨地蔵通り」と書かれている門を通り抜けると　
約1kmに渡って商店街が続く。

駅でたくさんの人が降りたが
商店街には更にたくさんの人で賑わっていた。
噂通り高齢者が多いが
お洒落なマダムや高齢者が多い。
流石東京だ。
農作業着の高齢者がその辺を歩いている地元とは違う。

　
商店街を歩くと、あるわあるわ。
マルジの赤パンツがやたらと売っている。
巣鴨といったら赤パンツだが
赤パンツどころか、赤い肌着や靴下や洋服もごろごろ売っている。

すごい。
誰が買うんだろう。

私は物珍しく、店内を眺めた。
とにかくマルジは赤い。
お店外観も赤いし、売り物も赤くて、真っ赤っかである。
こんなに赤い店は初めて見た。

　
商店街には飲食店があり、食べ歩きをしたり
うどんだかなんだか和食を食べた気がする。
私が行った時はハンドメイドアクセサリーも売っていて
お洒落なメガネアクセサリーがあったので買った。
ビーズや天然石を使った、青系の物である。

赤パンツが有名な場所で青系のアクセサリーを買った。

　
それが私の巣鴨の思い出である。

　
私はその後、彼氏とも巣鴨に行き
人生で二回巣鴨に行ったことでとりあえず巣鴨欲が満たされ
それからは巣鴨に行っていない。

　
　
　
　
それから月日は流れ、申年になった。

彼氏が申年だったので、「今年は彼氏の干支だ～。」と呑気に思っていた私に
母は予想外のことを言い出した。

　
母「ともかとお姉ちゃんで、赤パンツお母さんに買って。」

　
私「赤パンツ！？なんで！？」

　
母「申年に子どもが親に赤パンツを買って贈ると、下の世話にならないって言われているのよ。」

　
知らなかった。
まさか申年に赤パンツが繋がると思っていなかった。
赤パンツ＝巣鴨の印象しかなかった。

　
　
私は姉に連絡し、母の要望を伝え、二人で折半して赤パンツを買うことにした。
姉は二人目の子を出産したばかりで忙しいだろうし
私が代表で買うことになった。

　
ところが、である。

赤パンツはなかなか見つからなかった。

　
てっきり、母親が申年に親に赤パンツを贈ると良いという話をしていたから
お店には赤パンツコーナーがあると思っていた。
早々とバレンタインデーコーナーはあるのに
赤パンツコーナーはなかなか見つからない。
何故だ。

申年に赤パンツは有名な話ではないのか。

私や姉は知らなくても
ある程度有名な話だと思っていた私は
思いのほか、売っていなくて焦った。

　
「申年に赤パンツ贈るの！？」

「赤パンツ売ってる場所！？分からないなぁ。」

　
友達や同僚に聞いても、赤パンツ情報は入らない。
そもそも、申年に親に赤パンツを贈ろうとしているのは私だけで、周りにはいなかった。
こうなってくると、むしろ母はよく知っていたなぁと思ったし
定番は抑えたいんだなぁとも感心した。
母は昔からのいわれを気にするタイプだった。

　　
楽天やアマゾンでは、赤パンツは色々売っていた。
ワンポイントありとか
柄付きの派手なものとか
それはもう色々売っていた。
よりどりみどりだ。

　
だが、下着はデリケートだし
なるべくなら現物を見て買いたい。
ネットは最終手段だ。

　
私は数日間頭の中が赤パンツだらけだった。
セクシーな赤パンツなら下着屋に売っているのに
私が求める、高齢者向け赤パンツはまるで売っていない。

頭の中は巣鴨が浮かぶ。

どこでもドアが今こそほしい。
巣鴨まで行けば確実に赤パンツは手に入る。
あそこならたくさん売っているというのに
なんで申年なのにこっちには売っていないのだ。
わざわざ赤パンツだけを買いに巣鴨に行くのは
時間とお金が勿体ない。
電車賃の方が高くつく。
近々巣鴨方面に行く予定はなかった。

　
うーーーん。

　
悩んでいた私は、ついに偶然あるお店で、赤パンツコーナーを見つけた。
エスカレーターから遠方に見えた赤いコーナーに一縷の望みをかけて
私はドキドキしながらそこまで走った。　

あれだ！
きっとあれこそが赤パンツだ！

そうしてそこに辿り着いた時
【申年　幸せを呼ぶ下着】の看板を見つけてガッツポーズをした。

　
見つけたー！
ついに見つけたー！！

　
私は真剣な目をして赤パンツを手に取る。
想像以上に充実した赤パンツコーナーだ。
巣鴨には負けるが
十分なバリエーションだ。

赤パンツコーナーには誰もお客はいなかった。
だから私は誰にも気兼ねせず
じっくりと赤パンツを見た。
自分の下着なら即決だが
贈り物となると慎重になる。

まして母親にパンツを買うなんて初めてだ。

小さい頃は親に下着を買ってもらっていたのに
いつからか自分で色気づいて下着を買い
いつの間にか自分で稼いだお金で親に下着を買うほどになった。
　
ラッピングされた赤パンツを手に
私は自分が大人になったとしみじみ感じた。

姉に赤パンツゲットの報告と共に金額を伝え
大安に母にプレゼントした。
母は大変喜んでくれた。

　
　　
　
あれから五年が経った。

母はあの赤パンツを履いていない。
履いたかもしれないが
数えるほどしか履いていない。

持っているだけでご利益があるのかは分からないが
今のところは母は元気であり
下の世話を誰かがすることはない。

　
私は学校卒業後に福祉施設で働いていたから
母親以外の下の世話ばかりしている。

なるほど、確かに私がトイレ支援を担当する利用者は、誰も赤パンツを履いていない。