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さよなら、ニルヴァーナ/窪 美澄

窪 美澄さんの小説を読むのは初めてである。
 
  
タイトルと表紙がキレイで帯の言葉が気になって購入。

てっきり、たまたま好きになったクラスメートが殺人を犯してしまい、それでも好きな気持ちが止まらない女の子の話かと思っていた。

後ろ帯も読んでそんな想像をしていたら
見事に裏切られた。

 
この小説はフィクションらしい。

だが
阪神淡路大震災と東日本大震災、オウムサリン事件は時間軸に沿って描かれている。
 
フィクションなのか、ノンフィクションなのか読んでいて困惑する。

 
小説内で、日本を震撼させた14歳の少年犯罪者の犯罪内容は…酒鬼薔薇事件を彷彿させる内容だった。

犯人は美形、カルト教団の施設にいたなど設定は一部変えられていたが
事件内容はそっくりだ。

私からしたらその設定は蛇足であり、モヤモヤモヤモヤした。
フィクションならフィクションで、何故に中途半端にノンフィクションを混ぜてきたのだろうか。

 
作家志望の今日子は30代になってもデビューできず、実家にて妹家族のまるで家政婦のような扱いを受けていた。
ある日、住んでいる街にあの少年Aがいると噂を聞いた今日子は、ネットにて検索し、少年Aが美しい顔をしていたことに興味を抱く。
この少年Aについての小説を書いてみよう…

というのがストーリー。

   
しかし…
一見、今日子の書いた小説のように見せつつ
小説ではない部分も本書に書かれています。
今日子、そして少年Aに恋した莢、少年A、少年Aに娘を殺された母親が出会っている件があるのだから。

またまたモヤモヤッとしてしまう。

 
この章は今日子が書いた小説なのだろうか。
はたまた今日子らが体験している実際の話なのだろうか。

 
フィクションだかノンフィクションだか小説内小説やら小説やら、なんなんだか分からない。

 
あと、いまいち登場人物に共感できない。

誰もが身勝手、誰もが家族に恵まれない。環境や人間関係を丁寧に書き込んでいるにも関わらず、人間に深みがないというか…魅力的な人物が少ない。
やはりそれは中途半端に酒鬼薔薇事件をなぞっているからだと思う。
少年Aやその母親、被害者家族、遺族は…
こんなもんじゃない。
そんな思いも私の中にあるのかもしれない。

 
結局、莢の腹痛の原因や黒い車もよく分からなくてモヤモヤしたし
少年Aはそんなあっさりあんな展開にならないだろうと思った。

莢となっちゃんの終わりがうわぁ…だし
特になっちゃんがうわぁ…うわぁ……ぎゃー、だったのもひっかかる。

ラスト1行は心底いらないと思った。

 
家庭不和がメインで書かれ、なんで終わりかけは急ぎ足に恋愛絡めてきたのか…残念だ。
 
 
コロッケのエピソードはよかった。
1番よかったのはおばあちゃんと晴信の話。

「さぁ、ばあちゃんは亀や。晴信連れてどこ行こかな」
「ばあちゃんは晴信を連れていけん。もっと広いところに行かんと」

「いややいやや」
「僕、おばあちゃんの甲羅になる」

この辺の台詞はなんとも言えない。

 
窪さんは文章力があると思った。

長編だったけど、引き込まれる文章だった。
それだけに設定が空回っていて残念だった。
今日子の台詞にあったように、結局何を伝えたい小説なのかよく分からなかった。
私は知らなかったが、「絶歌」と販売時期が
かぶっていたとか。
タイミングがいいやら悪いやら。

 
多分もうこの小説は読まないが、窪さんの別小説なら読んでみたいと思った。




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