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かき氷はイチゴとブルーハワイだった

夏といったら、かき氷だ。

 
自宅にはかき氷機があった。
サンリオのキャラクターか何かのデザインだったと思う。
かき氷器専用の製氷器かあって
平べったい容器に水を張り、冷凍庫に入れ
おやつタイムに備えていた。

 
カパッとかき氷器の蓋を開け、円柱型の氷をセットし、ハンドルを一心不乱に回すと
サラサラとした白く削られた氷が下から出てくる。
適当なガラス容器をセットしておくと
あっという間に氷の山が出来上がる。

 
図鑑で見たような白い山。
絵本で見たような白い山。
シロクマを彷彿させる白い山。

 
キラキラと光ったその白い山が私は好きだった。
氷をセットし、ハンドルを回すだけで
非日常的な何かがいきなり出来上がる。

 
「今日は何味にする?」

 
祖母が尋ねる。
我が家にはいつもイチゴ、メロン、ブルーハワイの三種類のシロップが常備されていた。
私は必ずイチゴ味で、姉は必ずブルーハワイだった。
メロン味は母親や親戚用に用意しておいたものだが
基本的には私と姉が一番食べるので
イチゴとブルーハワイばかり減りが早かった。
例えお代わりしようとも
私も姉も絶対に浮気をしなかった。

私といったらイチゴだし、姉といったらブルーハワイなのだ。

 
 
 
私の家の近くにはプールがあったので
夏は家族とよくプールに行った。
小学校に上がってからは友達とも自転車を漕いで行った。

そこのプールには自販機があった。

流れるプールや滑り台で散々遊んだ後
休憩タイムに入ると
パラソル下でサッサと休憩していた家族からお小遣いをもらい
姉と共に自販機を目指した。

 
プールサイドには砂山みたいなエリアがあった。 
茶色の山のような形の、休憩スペースである。
山のふもとには目を洗う水道が下にあり
螺旋状の階段を登っていくと休憩スペースがあった。
そこにはいくつかの自販機があり
私と姉は必ずイチゴミルクを飲んだ。
お互いに好きなものは決まっていて
日替わり気まぐれで注文を変えることはなかった。

 
友達とプールに行った時は
ロッカールームまで小銭を取りに行くこともあれば
水を飲んで澄ませてしまったこともある。

 
 
プールの隣には図書館があり
家族とプールに行く時は必ず図書館に寄った。
私も姉も本の虫なので
家族が「そろそろ帰るよ。」と言うまで
絶対に帰りたいとは言わない。
お互いに好きな本や読みたい本、エリアは決まっていたので
お互いに何も話さず、バラバラの席に座り
ひたすらに読みふける。
親から言われるタイムリミットは
本を読んでいると、いつもあっという間だった。

   
 
 
プールや図書館のそばには
フードコートがあるスーパーがあり
図書館の後はそこに寄った。

プール → 図書館 → フードコート 

が定番の流れであった。

 
フードコートでも私と姉は注文するものが決まっていて
私は必ずフライドポテトで、姉は必ずたこ焼きだった。
かき氷を食べる時は、私は必ずイチゴ味で、姉は必ずブルーハワイ味だった。
その時のお腹の空き具合によっては
焼きそばやお好み焼き、ソフトクリーム、大判焼きを母親が買った。
自分用もしくは家族用である。

 
私はかき氷を食べた後に舌が赤くなり、姉は舌が青くなった。
夏の風物詩という感じがして
いちいち舌を見せ合った。 
分かりきっているのに、お互いの舌の色が変わるのは面白かった。
扇風機にいちいち、あーとかうーとか言うノリに似ている。

あの頃、そういった夏を感じる何かが大なり小なりあるたびに
いちいち笑っていた気がする。

 
 
やがて、家庭用のかき氷器は壊れ、役目を終えた。

私も姉も中学生になると
部活や夏期講習で毎日慌ただしく
自宅付近のプールには段々と行かなくなった。

 
だから中学生以上になってから
かき氷を食べるといったら、地域の祭りや花火大会だった。
中学生以上になっても
私は相変わらずイチゴ味だし
姉もブレずにブルーハワイ味である。

 
 
 
 
 
そういった夏をいくつもいくつも通り越し
やがて私は大人になり、障がい者施設に入職した。

 
社会人生活5年目頃、私の施設は日光の天然氷かき氷が食べられるお店に招待された。
日光の天然かき氷は噂では聞いたことがあるが
私は食べたことがなかった。

なんでも、普通のかき氷より氷がサラサラして
一気に食べても頭がキーンとしないらしい。
だけど、お値段がいい。

そんなイメージがあった。
 
 
 
招待されたお店は座席数に限りがあり
何日間何チームにも分けて、私の事業部の全利用者と全職員で行くことになった。 

 
私はそのお店に行ったことはないが
同僚が場所を知っていたので
私は同僚の後ろをくっついて走ることにした。
車椅子用のトイレがないとのことで
施設出発の15分以上前から
利用者にトイレを促していた。

 
 
そのお店は私の想像以上に狭かった。

お店の指定人数で班を分けたが、座席が足りず
日の当たるエリアに長テーブルや椅子を簡易的に並べ
その場でチャッチャと利用者を誘導し
座席を指定した。
利用者間で相性はあるし
お店はバリアフリーではない為
車椅子の利用者の人達は自力では食べにくそうだった。
車椅子ではない利用者の方も、食べるには支援がいる人がたくさんいた。
かき氷はなかなかに上手に食べるのは難しい。

 
 
その店は、色々な味のかき氷があった。

イチゴ、ブルーハワイ、メロン、レモン、マンゴー、抹茶小豆、グレープ、コーラ等々
気になる味がたくさんあった。
いつもならイチゴ味で迷わない私も
先に行った利用者や同僚がマンゴーや抹茶小豆を推していて、私の心は揺れた。

 
同じタダなら、抹茶小豆の方が小豆が入っている分、お得かも…

 
と、邪な思いに駆られ
人生で初めてイチゴ味以外のかき氷を頼んだ瞬間だ。
20人以上で行ったので
あらかじめ誰が何味を食べたいかは集計してあり
お店の人に注文リストを渡す。
お店の人はせっせせっせとかき氷を用意し
私達の前に運んだ。

 
仕事とは言え
噂の日光天然かき氷が食べられるなんて得だなぁ…!

 
そう思いながら
サラサラしたかき氷をスプーンで一口すくい、口に入れる。 

 
美味しい………!!

 
口の中に溶けるようなサラサラ感と抹茶はマッチし
中からは小豆が顔を出した。
抹茶と小豆のハーモニーがまた絶妙だった。

   
 
利用者の人達も美味しい美味しいと笑顔だ。
お店のサービスで、その時、シャボン玉が私達の方に飛んできた。

 
「シャボン玉だぁ~!」

 
利用者が歓声を上げる。
晴れた日の午後、ここには信頼した同僚と利用者しかいなくて、平和そのものだった。

 
普段いつもニコニコ笑顔を絶やさない利用者が
別の利用者からちょっかいを出されて
施設利用開始してから初めて大号泣したり
手元が狂ってかき氷を派手にこぼす利用者もいた。

 
それでも、そんなことは些細なことに過ぎないとしか思えないほどに
ここは平和そのものだった。

 
 
お店の人がサービスで、各テーブルに色んな味のかき氷を用意してくれた。
だから私は抹茶小豆だけでなく、マンゴーやイチゴ味も楽しめた。
どれも絶品だった。

 
 
更に、店長さんが趣味で占いが得意とやらで
職員何人かの占いをやってくれたり
(私も占ってもらったが、内容忘れた)
かき氷屋の他に居酒屋も経営していて
そちらは相席屋もやっていると豪語していた。

 
独身の職員は私だけだ。
みんなからの、格好の餌食となった。
ただ、そこは同僚も知っている店だし
職場恋愛や職場絡みの恋愛は面倒くさいと思っていた為
私は愛想笑いだけして逃げた。

 
 
 
その後も毎年のように、日光天然かき氷に無料招待された。
私は計3~4回行ったと思う。
日光天然かき氷無料招待の企画は金額や立地等
大人の事情で都合や勝手がよかったらしく
何年か続いた。
そのたびに店長さんは、各テーブルにサービスで色んな味のかき氷を用意してくれ
私は毎年注文するかき氷を変えて
一通りの味を楽しんだ。

一通りの味を食べた結果
その店のかき氷に関しては、マンゴーと抹茶小豆が特に美味しいと
同僚と言い合った。

 
かき氷と言ったら
イチゴとブルーハワイが王者だと思っていた。
迷う余地もないと思っていた。 

その概念が
思い切り変わった瞬間だった。

 
 
 

ちょうどその頃、私だけでなく、姉にも変化があった。
家族で一緒に夏祭りに行った際、姉はブルーハワイを頼まなかった。

姉「最近さ~他の味も食べてみたくなって、色々試してるのよ。」 

 
私「それな!私、最近マンゴーにハマッてる。」

 
姉「マンゴー美味いよなぁ~!」

 
二人で違う味を注文し、姉のかき氷を一口分けて貰う。
姉の子どもはイチゴとブルーハワイだった。
まるでかつての私達姉妹のようでクスリと笑ってしまった。

 
私も姉も一番好きなのはイチゴとブルーハワイというのは変わらないけれど
でも
お互いに他の味も楽しめる大人になった。

 
大人になるにつれ
私も姉も味覚は変わっていった。
野菜や果物は昔より大好きになったし
辛さや渋みのある食べ物も求めた。
逆に、昔大好きだったはずの
グラタンやショートケーキや揚げ物が
昔ほどは量を欲さなくなった。

子ども時代は洋食好きだったが
アラサーになると和食が大好きになった。

 
世の中には変わらないものもあるが 
変わるものもあるのだ。

 
 
 
 

そして今から数年前から、かき氷専門店ができるようになるほど、かき氷はブームになった。

山盛りのかき氷はピスタチオ等様々なオシャンティーな果物やソースがかけられ
インスタ映えの対象スイーツとなった。
安さ手軽さが売りだったはずのかき氷は
今や人気店は行列ができるほどだし
1000円札でお釣りが少々出るほどの値段だ。

 
三年前、鹿児島のしろくまに憧れた私は、東京でしろくまを食べた。
真っ白な雪山のかき氷にカラフルな果物が散りばめられ、絶品であった。
二年前に初めて鹿児島に行った時はしろくまがメインだったが
ツアー旅行のため、専門店に立ち寄ることができなくて残念だった。

 
代わりに、地元でやっていた各地のアイスやかき氷フェスに行き
インスタ映えしそうなカラフルなかき氷を食べた。
割と量があったので
たかが氷、されど氷といった感じで
満腹感を感じた。

 
 
去年は用事で東京に行った際、黒蜜きな粉のかき氷を注文した。
サツマイモのチップスや白玉で飾り付けられたそれは
まさにインスタ映えのかき氷で、私は感動した。
思わず食べる前にパシャパシャ写真を撮ってしまう。

かき氷も進化したなぁとしみじみ思った。
 


  
 
今年はコロナウィルスの影響で夏のイベントが一通り中止になった。
そして私はふと思った。

 
今年、かき氷食べてないな、と。

 
大人になった私は自宅や近所の店でかき氷を食べなくなった。
食べる時はいつも夏のイベントや、出掛けた先だったのだ。
かき氷は私が誰かと、もしくは一人で
夏に特別なイベントに出掛けた証だったのだ。

 
かき氷を食べなくても夏は来るし、夏は終わる。

それでも来年の夏は
かき氷を楽しめる年であってほしいと切に願う。



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夏の思い出

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