究極のメンタル① アスリートの真髄に迫る

 今回から「究極のメンタル」というタイトルでアスリートのメンタルについて連載を行なっていきます。

 私は在野でスポーツ哲学の研究をしています。アスリートへのインタビュー研究を行なっています。テーマは「ゾーン」「上達」「駆け引き」などです。研究内容は日本ソフトテニス研究会で発表しているのですが、研究成果を分かりやすい形で広く公表したいと考え、noteでの連載を始めます。

 タイトルに「究極」と入れているのは、最高レベルの選手の最高レベルのパフォーマンスを研究しているからです。最高レベルの選手がプレー中に体験していることを、なんとかして取り出して追体験できる形で多くの人に共有したい。言語化が難しい領域をなんとかして言語化したい。ほどほどの熟練ではなく、一つの競技をとことん極めた先にどんな世界があるのかを知りたい。そんなモチベーションで研究しているからです。なので、コアでマニアックでディープな内容で連載していきたいと思っています。

 インタビューの対象となっているのはソフトテニスの選手ですが、内容はスポーツを極めたいと思っている全ての人にとって役立つものだと思っているので、タイトルに「ソフトテニス」とは入れていないです。ぜひ他競技の方々に読んでいただきたい内容です。

 僕がやっているようなインタビュー研究はスポーツ科学の世界ではあまり多くないです。

 スポーツ科学は多くのサンプルを集め、研究成果を一般化します。そのことで研究の客観性が保証されるのです。でも、このインタビューは主に篠原選手1人だけに対して行われたものです。1人だけにインタビューした内容が一般化できるのか?自分の上達に役立つのか?といった疑問を持つ方もいるかもしれません。しかし、篠原選手1人にだけインタビューをすることに意義があると僕は思っています。一般化して取り出された研究成果からはひとりひとりの個性が取り除かれてしまいます。この連載ではトップアスリートの個性を感じ取ってもらいたいです。人間はひとりひとり違うので成功した人の方法をそのまま真似しても上手くはいきません。でも優れた成果を上げている人の個性に触れることで、触発される何かがあると思います。そういう触発を通じて、達人の技は伝達されていくのではないでしょうか。

インタビュアーとインタビュイーの簡単なプロフィールを紹介します。


勝又大(筆者)

東京大学文学部哲学専修卒。学生時代は軟式庭球部に所属。職業はプロ家庭教師。在野研究者としてアスリートへのインタビュー研究を行なっている。

 学生の頃、勉強は努力しなくても成績が伸びました。一方でテニスは努力しても結果が出ませんでした。「努力が報われるとは限らないんだな。この不思議さはなんなんだろう。」と思ってきました。だから「上達する」ということに強い関心があります。勉強を教えることを仕事にしているのも、スポーツ哲学の研究をしているのも、自分でもテニスの練習を今も続けているのも、全て「上達」というテーマを考えることにつながっています(今までに勉強をテーマにアップしてきた記事の中にもスポーツに通じる部分があります。)。

 また、家庭教師で相手の考えを引き出すわざを磨いてきたことが、アスリートへのインタビューに生かされています。

 この連載では私がテニスでしてきた失敗や受験勉強にも通じる話も交えながら、アスリートのすごさを伝えていけたらと思っています。


篠原秀典(被験者)

 ソフトテニス愛好家にとっては説明するまでもないことですが、他競技の方に向けて紹介をします。

元ソフトテニス日本代表。2018年に引退し、現在は日本体育大学助教授で同大学ソフトテニス部監督。日本代表としてアジア大会団体金メダル、東アジア競技大会ダブルス金メダルなどメダル多数。国内では天皇杯(日本で最も権威のある大会)優勝3回。日本にダブルフォワード(ダブル前衛とも呼ぶ)というフォーメーションを本格的に導入した先駆者であり、ソフトテニスの戦略に大きな変化をもたらした(ソフトテニスはダブルスをメインとするスポーツ)。約10年間にわたり日本の第一人者であり続け、日本代表として、国際大会でも多くの活躍をした(ソフトテニスの強国は日本・韓国・台湾の3カ国)。

 今後、他の方へのインタビュー内容も紹介しますが、主に取り上げるのは篠原さんのものです。

 篠原さんは、高校までは日本代表レベルではなく、ソフトテニス選手としては遅咲きの部類になります。また、ソフトテニスの戦略を大きく変える新しいフォーメーションに挑戦することで日本のトッププレーヤーとなった革新的な選手です。


 篠原さんがどうやって日本のトップに上り詰めたのか、どうして革新的な戦術に挑戦したかがインタビューを通して明らかになりました。

 研究テーマの一つであるゾーンは、時間がゆっくりに感じられるようになったり相手がどこに打ってくるか読めるようになったりする不思議な体験です。オカルトっぽい部分があるので科学的な研究テーマとしては敬遠されがちです。でも、ゾーンは熟練したアスリートが持てる能力の全てを発揮した場面。そこに切り込むことは、とても大きな意義があるはずです。オカルトっぽいテーマを切り捨てず、一方でオカルト的な説明にも頼らずに解き明かすというのが私の方針です。際どいところを攻めていきたいと思います。


 今後、更新しようと思っている記事の内容の一部を紹介しますね。
・勝ち続けるためにはゾーンに入りたくない
・ゾーンには身体的なゾーンと知的なゾーンの2種類があるかもしれない
・「見る」のと「見える」のは違う
・相手の動きは「予測」するものではなくて「誘導」するものだ


 今後も記事を読みたいと思った方はサポートをお願いいたします。インタビューに協力してくださった方への謝礼と研究用の書籍購入費などに充てさせていただきます。


公開済みの記事


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