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昨日も今日も古本さんぽ 2015-2022


岡崎武『昨日も今日も古本さんぽ 2015-2022』(書肆盛林堂、2024年1月28日)

岡崎武志『昨日も今日も古本さんぽ 2015-2022』は『日本古書通信』連載の「昨日も今日も古本さんぽ」という古本屋探訪記を加筆編集した内容です。これに先立つ『気まぐれ古書店紀行』『気まぐれ古本さんぽ』も併せて二十五年もの長期にわたって日本全国の古本屋を訪ね、その記録を綴ってきたということになります。偉業と言っていいでしょう。

今回は五十代終わりから六十代半ばまでが連載時に相当する。二〇二〇年からの新型コロナウイルスの爆発的感染は、二〇二三年十二月現在にいたってようやく終息のきざしを見せつつある。古本屋にも休業要請が入った時期があり、死に絶えたような街の風景の一端は、本書でも描いた。今後、貴重な記録となるであろう。飲食などおほかの業態と同じく、休業期の損失を回復しきれず閉業された店もたくさんある。他に理由はあるだろうが、経堂「遠藤書店」、高円寺「都丸書店」などは東京を代表する老舗と呼べる名店で、閉店の報は思いがけなかったし、ショックを受けた。ちゃんとカウントしたわけではないが、本書で紹介した店のうち、おそらく三分の一は現在、店そのものを閉業もしくは店売りを止められたと思われる。 

あとがき p384

ザーッと目を通していたら、喫茶店が登場していたのでメモしておきます。「かけそば一八〇円、コーヒー一六〇円とは/大阪はええとこだっせ」より。創元社の『本の虫の本』(2018)を作るための打ち合わせで大阪へやって来た岡崎氏は、もちろん久しぶりに大阪の古本屋を巡ります。蛇足ながら、この打ち合わせには私も加わっていました、他に荻原魚雷氏、田中美穂さん(蟲文庫)、能邨陽子さん(恵文社一条寺店)、赤井稚佳さん(イラストレーター)、そして担当編集者でまだ大阪にいたころの内貴さん。楽しい半日でした。なつかしい。

翌朝、まだ打ち合わせまで時間があるので、南海汐見橋線で「西天下茶屋」へ。おそろしくレトロな駅舎とともに、隣接する商店街が、昭和で完全に時を停めたたたずまい。その中に「マル屋」という創業八十年以上の喫茶店がある。これを旅番組で見て、激しく心が動いてしまった。大阪ヘ行くことがあれば、ぜひと思っていたのだった。
 なにしろ、うどんやかけそばもある喫茶店で、しかも値段はコーヒー一六〇円に代表されるように、とことん安い。カレーは二五〇円。全体に五十年前ぐらいの価格、テレビ放送で、「なんでこんなに安い?」と聞かれて「ボロっちいからや」と答えたチョビひげ老人店主がまたいい。コーヒーを頼んだが、料金は先払い。値段の割に、ちゃんと美味しいコーヒーだった。わざわざ他府県から、駆けつける価値あり、と言っておこう。 
 ※二〇二三年八月調べで「マル屋」は健在。      (二〇一八年三月号)

p162

チョビひげ老人店主の似顔絵もとぼけているし、シンプルな古本地図にも味がある。

ところで岡崎氏がライターで身を立てるべく上京(1990)する以前、一九八八年一一月に発行された『BRACKET』第五号に「文庫で読めない文庫 絶版文庫カタログ」という特集を山本善行氏(現・古書善行堂主人)と二人で担当しているのですが、そのなかにも大阪・京都の古本屋案内(地図入り)があるのです。そのページがこちら。すでに岡崎武志は岡崎武志です

『BRACKET』第5号より

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