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映画「怪物」と小説「怪物」を観た

映画「怪物」を観た。

観る前の第一印象は「モンスターペアレント」かと思った。
予告を観ると、保護者と教師の両方の視点から見たすれ違いものかと思った。
実際に観たら、日常に潜む様々な問題を少しづつ練り込まれ片側の主観のみ観た時の恐ろしさがはびこっていた。

・3つの視点

大まかに3部構成にわかれていて、
1.保護者視点
2.教師視点
3.子供視点

になっている。

しかし、それぞれのチャプターで主観的に感情を吐露することは少なく、あくまで第三者視点から物語を見せている。
別のチャプターで観たものにほんのちょっとエッセンスを加えたり観る方角を変えただけなのに事情が異なっていくのは心地よかった。
また、初めの方では一見理解しづらいシーンカットや小物、音などが全て繋がっていく様はパズルを解いているようでとても興味深かった。

・人間の持つ様々な状況

安藤サクラ演じる母親、永山瑛太演じる教師、黒川想矢演じる息子。
この3者だけでなく事情を持った人たちは他にもいる。
息子の友だち(柊木陽太)、その父親(中村獅童)、校長(田中裕子)。
みんながみんな闇を持ち、ちょっと他人との関わり方が上手くなかった。

また、カンヌ国際映画祭で脚本賞のみならずクィア・パルム賞を受賞している。
こちらはさりげなく触れていて違和感を感じない造り。
疎い人なら全く気づかずに進むのではないだろうか(自分がそうだった)

虐待、世間体、片親、マイノリティ、マスコミ、様々な要素が入っているにも関わらず社会派作品として観るのではなくヒューマンドラマとして胸を撃たれる作品だと思った。

・小説

ストーリーの背景もさながら構成がとても見事だったので気になって小説版を買ってみた。

元が小説というわけではないこの作品。
映画の脚本から書き下ろしたものだろうと思ってはいたが著者は脚本とは別の人だったので懸念しながら読み進めたが杞憂だった。
存じ上げなかったのだが、是枝監督の映画を幾度もノベライズ化している著者なので監督の言いたいことを見事に代弁していたと思う。

映画のまんま、記憶の中の映像、役者の台詞そのままに再現される表現力だった。
さらに、映画ではほんの一瞬の映像で把握しなければいけない状況の説明について…もしくは映画では明かされていない本人の過去の経験についても補足されており、より一層人物像が明確に見えてきた。

この小説を読んだことにより腑に落ちた部分がたくさんある。
丁寧な補足は時折蛇足になりがちなものの、自分にとっては漠然と納得していた事柄が真から理解できた。
ただやはり映像のインパクトというものに勝るものはないので最初は映像で観て後に小説で補足してほしいなとは思う。

これとは別にシナリオ集も買ってみたのでこちらも比べながら読んでみようと思う。

派手な演出はないものの、全体的に丁寧な造りで緻密に練られている良い作品だった。
小説、シナリオ集まで購入して何度も触れてみたくなった作品は久しぶりだった。

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