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村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』人間による破壊の衝動

ふと手にとった『コインロッカー・ベイビーズ』。題名は知っていたものの、どういう作品か知りませんでした。

人情的な話かな、と軽く手をとり愕然がくぜん

SF小説に、かなりの衝撃を受けました。SF と言っても日常と地続きの SF です。

1日で上巻、2日目で下巻を読んでしまいました。

めちゃくちゃ怖い小説です。

なぜ人間は生きているのか……。


当時の若者の代弁

「必要とされてる人間なんてどこにもいないんだよ、全部の人間は不必要なんだ」

小説の中では、個人としての人間としてだけでなく、人間自体についての問いが投げかけられています。

社会に矛盾を感じる人々が、社会の在り方や常識を根本から問い直されたと思います。

僕は80年代に生まれ、その当時のカルチャーが好きでした。だからこそ、すごく好意的にこの本を受け入れることができたと思います。

現代に読むとどう感じるか

現代は暴力のはけ口がない、ストレスを溜め込む時代だと思うときがあります。ぼく自身、ダンスで身体を動かしているのでストレスが発散できていると思うことがあります。

暴力が悪であることはわかるけど、それを溜め込んでいる人も多く、発散させる場も必要です。

結局、人間は誰しも破壊衝動を持っています。ですが、この破壊衝動を押さえているからこそ人間とも言える。

人間は動物ではない。

特に21世紀になり急激に世界は平和になりました。この急激な変化に人間の精神が追いついていないんじゃないか、と思ってしまうときがあります。

そしてその反動からか 2023年は戦争の火種が広がりつつある世界になっているようにも感じます。

本を読み、いろいろなことが頭をぐるぐるしています。

村上龍 著

1980年に出版された『コインロッカー・ベイビーズ』。村上龍さんの3作品目です。

又吉さんや、金原ひとみさん、などなど多くの人に衝撃を与えています。

問題作にかかわらず評価が高いです。

あらすじ

暑い夏のコインロッカー。生まれたばかりの赤ん坊が捨てられた。

コインロッカーに捨てられた赤ん坊の大半は死んでしまう。だが、爆発的な泣き声によって、この赤ん坊は周囲に気づいてもらうことができた。生への執着が強いように思われる。

同時期にもう一人の赤ん坊がコインロッカーで発見される。

2人は保護され兄弟として育てられる。名前はキクとハシ。

母親に、しかもコインロッカーに捨てられたという感覚が2人を苦しめる。まるで自分は不必要だと。

破壊の衝動にられる2人。

キクは直接的に破壊衝動を表し、ハシは精神的に破壊衝動を示していく。

「なんのために人間は道具を作り出したのか。壊すためだ。壊すのは選ばれたヤツだ。キク、おまえには権利がある」
「人を片っぱしから殺したくなったらこのおまじないを唱えるんだ」
「ダチュラ」

この言葉がキクの人生を支え続ける。

上巻:詳しめのあらすじ

ネタばれしているので注意してください。

乳児院に預けられた2人は、5歳で九州にある離島で生活する夫妻のもとに引き取られる。

そこでのびのびと生活しつつも、どこか欠陥を感じている。運動神経バツグンのキク、コミュニケーション能力の高いハシ。2人でお互いを補い合い、乗り越えていく。

16歳、ハシは母親を探しに東京へ逃げてしまう。半年後、今度はキクが養母を連れハシを探しに東京へ旅立つ。しかし、養母は事件に巻き込まれ死亡してしまう。

キクは「ダチュラ」という名前を思い出し、調べ始める。ダチュラとは米軍の開発した精神高揚剤とわかる。人間の力を大幅に増幅し、凶暴化させ、死に至らせる。

ダチュラを探すキクは鉄条網に囲まれた立入禁止の区域・薬島へ向かう。薬島はスラム街化していてかんたんには入れない。

そんなキクが美しいモデル「アネモネ」と出会う。人生を冷めた目で見るアネモネ。

アネモネの力を借り、薬島に潜入するキク。

キクは思いがけずハシと再会を果たす。ハシは髪を伸ばし、化粧をしている。自分をホモと言い、ミスターDというプロデューサーかつパトロンに見込まれていた。歌手デビューするのだと話す。

ハシは歌手デビューを目指し、キクはアネモネと生活をはじめる。

キクはふと見た雑誌の記事から、小笠原諸島周辺にダチュラが沈められていることを悟る。キクはアネモネにダチュラで東京を廃墟にする計画を打ち明ける。破壊衝動を共有するアネモネと計画を進めていく。

無事デビューを果たしたハシ。しかしミスターDは満足しない。起爆剤としてハシを生みの親と再会させるドキュメンタリー番組を制作しようとしている。ハシには内緒で、便利屋に母親を探させる。

便利屋がコインロッカーに幼児を捨てた母親を突き止める。

ハシと母親のドキュメンタリーが放送されてしまう。その情報を知ったキク。ハシの心が壊れてしまうと心配し、現場へと向かう。

しかし、そこにいたのはハシの母ではなく、キクの母だった。混乱するキク。ぐちゃぐちゃになる現場。

そこでキクの破壊の衝動が暴走する……。

日常と地続きの SF

小説の中では突拍子もないモノがどんどん登場します。

廃墟の街、自衛隊が管理する東京にあるスラム街、米軍が開発した神経兵器ダチュラ、2人が幼少期に受ける精神科の治療、体調2メートルのワニをマンションで飼っている美人モデル、人を錯乱させることのできる歌を口ずさむハシ、有刺鉄線を棒高跳びで飛び越えるキク。

このアイディアに舌を巻くんですが、それだけでなく、すごくリアルで本当にあるんじゃないか、と錯覚してしまいます。

ついついググってしまいました。

グロテスクな描写

なによりもゾッとするのは、村上龍の描写力の高さです。

汚いシーン、残酷なシーンが多く登場します。その描写力が高く、頭の中がゾワッとする感覚になります。このゾッとする感覚。本当に頭を掴まれているような感覚です。

これだけの体験を与えられる描写。30代になってもこんなにも衝撃を受けるかとびっくりしています。

映画で見るような視覚的な怖さではなく、自分の中からつくりだす怖さ。

物語の中に自分が入っていき、キクとハシの隣にいるような気分になっていました。

たった17歳のキクとハシ。

キクはダチュラを求め、ハシは幼少期の精神治療で聞いた心臓の音を求めていきます。

上下巻がまとまっていて、金原ひとみさんの解説もオススメです。

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