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#1 雪貼り職人に俺はなる|さっぽろ雪まつりボランティア体験記【実録レポ】

1月13日、ボランティア初日。
私は雪に埋もれた都市・札幌の中心街をひた走っていた。

一ヶ月前に家に届いた案内には、
雪像作成初心者技術講習会:13:00集合
と記載があった。
スマートフォンを確認すると、既に5分以上過ぎている。
遅刻の原因は簡単で、少し前に始めたnoteが何でかプチバズっており、フォローしてくださった方やスキしてくださった方の記事をひたすら巡回していたら時間を忘れてしまっただけだった。

もともと、5分前行動というのが苦手なズボラ人間であったので、そもそも地下鉄の時間も調べていなかった。
はい、完全に私が悪いです。

案内所に同封されていた地図とスマホの時計をチラチラ確認しながら、東西に伸びる大通公園横の長い歩道を小走りで駆ける。
道民は、よく滑る雪道でも走れる特殊能力を持っている。

さっぽろ雪まつりのメイン会場となる大通公園は、札幌の中心部を東西1.5kmに渡ってぶち抜くという広大な敷地を誇る。

近畿日本ツーリスト様より引用。左にはみ出てる。
https://www.knt.co.jp/meito/sp/sapporoyukimatsuri/

その敷地の各所では既に雪まつりの準備が始まっており、至る所に仮設のプレハブ? やショベルカー、さらには自衛隊車両までもが点々としている。
(毎年自衛隊の小隊が雪像を作る伝統があるらしい。)
一定間隔ごとにビル3~5階分くらいの足場が組まれ、雪山が形成されていた。

大通公園10丁目会場付近。

10分遅れで到着した控え室には、既に10名ほどの参加者が集まっていた。

後に聞いた話では、この日集められたのは初心者だけで、ベテランさん含めこの会場だけで50名以上の参加者が居るらしい。
更に、ほかの会場にもボランティアが派遣されているらしく、恐らく100名を超える参加者がいるようだった。
思った以上の人気職だった。

講習会はまだ始まっていなかった。なんでも案内所の記述が曖昧で、13:30開始と間違えている人がいたらしい。
幸いにも私の遅刻はお咎めなしで済んだ。

控え室に無造作に並べられたパイプ椅子に腰掛け、軽く周りを見てみると、集まっていた皆様はまさに「老若男女」そのものだった。
リタイア済みであろうおじ様や、友達で参加の女子大生、四国から移住してきたというご夫婦、中には手話で説明を受けている方もいた。

ソワソワとnoteを読みながら待っていると、スキー教室の先生が来ているような真っ青のスキーウェアの上に、高所作業用のハーネスを装着した男性が入ってくる。
どうやら、この元気そうな方が担当者のようだ。

やがて開始時間となり、この会場の制作隊長を名乗ったそのお兄さんは、プレハブ小屋に割とぎゅうぎゅうに詰め込まれた私たちに様々なレクチャーをしてくださった。

さっぽろ雪まつりの歴史から始まり、雪像作成にかける思い、この会場で作る大雪像の構想、完成までのスケジュール、雪像作りに使用する様々な専門道具(何故か会場ごとに独自の伝統的な呼び方があるらしい)。

コロナのためボランティアの召集は数年ぶりになるとのことで、たまたま今年札幌に引越して募集を見つけた私は、本当にラッキーだった。

基本的に人海戦術に使われる私たちボランティアのメイン作業は、「シャーべの壁貼り」らしかった。

まず「シャーべ」というのは、これもこの会場独自の呼び方らしいが、雪像を綺麗に白く塗り固めるための「化粧雪」に、水を適量混ぜたものを指す。

雪国の民はご存知のことと思うが、雪というのは気温によって(つまり溶け具合によって)その状態を大きく変える性質があり、大きく「ベタ雪」と「さら雪」に分けられる。

冬の始まりや気温がそこまで下がらない関東以南で主に見られるのは前者、水分を含んだベタ雪であり、名前の通りベタベタと靴の底などにくっつく性質がある。
押し固めると簡単に固まるので、雪だるまやかまくら、雪合戦に向いている。

一方で、冬本番の北海道は基本的に0℃を上回る日が無いので、降る雪は「さら雪」に変わる。
こちらは水分が無く、強く握ってもサラサラと崩れてしまうため、雪玉ひとつ作れない。
実は、冬本番の北海道で雪だるまを作るのは難しいのだ。

さて話を戻すと、雪像作りに使われる「シャーべ」は、ベタ雪の究極系みたいな物質だった。
実際に隊長手ずからその場で作ってくださったシャーべを触ってみたが、もう「ギュッ!キュッ!ガチッ!」みたいな感じ。
こんなのが降った日には、道を走る車は総じて雪だるまになり、建物にも着雪しまくって電波が通じなくなり、除雪しようにもまず鉄スコップが無いと歯が立たないだろう。

その状態になった雪は比較的くっつきやすい為、それを平らな部分にぺたぺたと貼り、専用の木の棒を使って綺麗にならしていく。
要は、左官バイトだった。

ちなみにこのシャーべに使われる化粧雪は、不純物が可能な限り少ないことが求められるため、わざわざ山奥まで出向いて綺麗なブルーシートを張ったトラックで運んできたものを使うらしい。
一体いくらかける気なのか。さっぽろ雪まつりにかける道民の本気がうかがえた。

また、隊長は大雪像作成の工程を丁寧に教えてくれた。

①足場を組んで全面に板を貼る。これが「型」となる。既に現場には7~8階層位の巨大な足場が組まれ、全方位に板が貼られていた。
②雪を流し込む。このとき、雪が足場の隙間から流れ出ないために、型としての板を貼るということだ。ちなみにこの中身の雪も、毎年大雪が降った各所から雪を運んでくるらしい。今年は新篠津産(札幌から車で1時間弱)。
③固まった雪塊を雑に削っていき、大枠の形を出す。板も外していく。
④細部を削って形を出し、化粧雪を貼る。
⑤足場をばらして完成。

こうして見てみると、雪像ひとつに本当にたくさんの人の手間と労力がかかっている。それなのに、最終的には全ての会場合わせて200基程の雪像が完成するというのだから、恐ろしい話だ。

もちろん雪像だけでなく、期間中は様々なイベントが盛りだくさんということで、このさっぽろ雪まつりは世界的にも人気の高いイベントらしい。
正直舐めてたぜ、さっぽろ雪まつり。

そうして実際に現場をぐるっと回り、壁貼り体験を終え、プレハブ小屋に戻って追加で何点か注意事項を受けると、この日の初心者技術講習会はお開きとなった。

俄然楽しみになってくる。
こうなると、仕事の都合上どうしても平日の日中参加できないというのが惜しまれてくる。
来年は有給でも取ろうかな。

帰り道がたまたま一緒になったおばちゃんお姉さんは元々関東出身の方で、飛行機でさっぽろ雪まつりに遊びに来たこともあるらしい。
思った以上に大変な労働になりそうですねぇ、と話しながらも、私とおばちゃんはこれからの作業にワクワクを募らせていた。

次回に続く。


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