冴えわたるとろけるチーズ

うずうずしてる
むずむずしてる
電気を消してベッドに入ったのに
言葉たちが私を寝かせてくれない
睡眠薬で半分閉じた目をこじ開けて
パソコンを起動する
朝になったら靄のように消え去ってしまう微かな手触り
まるで船乗りのように
正確に言葉を記録してゆく
眠剤とお酒のダブルパンチで
脳みそはとろけるチーズなのに
ある一部分だけが異様に冴えわたっている
麻薬でもキメてるみたいだなあ
何度誘われても断って来たけど
あいつらの本当に欲しいものって一体なんだったんだろう
夜は過去
極彩色の落ち葉に埋もれて
一枚ずつ手に取り眺めてく
数え切れるはずもないのに
こっちの穴だらけのはもう見たくない
この美しいグラデーションは間違いなく愛の歴史
羊を数えるよりよっぽどいいさ
ああ何を書きたかったんだっけ
心の中の少女がお話してとねだるから
私は物語を紡がなければならない
小説家じゃないんだけどな
こっちへおいでと抱き寄せると血の匂いがした
酷かったもんないじめ
青々とした木の葉も真っ赤に染まる
ごめんなこれからも辛いことだらけなんだ
仕舞いには病気になってしまうんだ
そんな人生なんだ
そんな人生なんだよ
それでも生きてくれるかい
少女の目には強い光が宿っていた
雨の日も風の日も真冬の凍える雪の日も
ひとり屋上に逃げ隠れてた
それでインフルエンザになった時も
親は迷惑そうに私を黴菌扱いした
それでも生きた
それでも生き延びたから今がある
病と闘う毎日だけど
ご飯は美味しいし猫は可愛い
私は弱くない
そう唱え続けてきた
それが現実なのかどうかはわからない
命を守り終えるまでわからないのだ
さあ寝よう
あの子を抱き締めながら
幸せに生まれて幸せに育って幸せに生きて幸せに死ぬ人を
羨んでも明日の朝のコーヒーが不味くなるだけさ

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