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なんで海外文学を蒐集するの?

この記事は海外文学・ガイブン Advent Calendar 2020、12/17の担当分となります。

はじめに

今回の海外文学・ガイブン主催者の藤フクロウさんとは、おおたさんの主催する読書会で知己になり、精力的な海外文学読みとして尊敬している(小生はどちらかというといい加減な読書会参加者で、いつも新しい気づきがある。開催をしていただいて感謝しております)。なお書き手はどちらかというとSF読みで、最近は本業の関係で海外文学があんまり読めていないせいもあって、購入した海外文学の積読山脈が大きくなり、職場も家も本に浸食されつつある。何とか積読山脈を切り開こうと、時間を見つけては読もうとしているのだが、独身時代とは異なり、かなりの時間の制約があってわくわくしながら、たくさんの本を読むことができてないというのが中年になってからの日々である。純粋に読書が出来なくなってしまったのは、齢を重ねて、様々なしがらみにがんじがらめになってしまったことによる。…というわけで、物語世界にジャック・インできるような読書ができている皆さんは、とても幸せな瞬間を送っているといえます!そんなわけで、他の書き手の方々とは少しアプローチを変えて「なぜ海外文学を蒐集するのか?」というところから、海外文学の面白さを感じていただけると幸いです。

海外文学を蒐集するきっかけ

コロナ禍において、なぜ海外文学を蒐集するのか、蒐集開始より蒐集の経緯について簡単に触れながら、どんな海外文学を読んできたのかを紹介したい。本の世界にはまったのは、大学生時代からで、それまではどちらかというとPCゲームやTRPGの方がメインで、関連してファンタジー小説(ドラゴンランスとか)を読む程度だった。そんなわけでガチな海外文学読みではなかった。ただ人工知能の研究者だった父の影響もあって、アーサー・C・クラークだけは読んでいて(『2001年宇宙の旅』(ハヤカワ文庫SF)ほか)、その土壌がなければそこまで海外文学読みにはならなかったと思う。

光の王

ただしそんな中でも高校時代に読んだロジャー・ゼラズニイ『光の王』(ハヤカワ文庫SF)は、めちゃくちゃ面白く、衝撃を受けた一冊だった。インド神話の世界をベースにした惑星に移住した世界で、圧制下にある民衆を解放すべく、敢然として神々に戦いを挑むという内容なのだが、豪華絢爛な世界にぞくぞくした記憶がある。そこからSF小説の面白さに目覚め、積極的に読むようになった。SFのすごいところは、SF作家たちの想像力が確実に現実社会に影響を与えていること。SF読みとして有名な経済学者、ポール・クルーグマン(「恒星系間貿易の理論」という論文をイェール大学時代に書いている)やテスラ・モーターズのイーロン・マスクしかり。今影響を与えている人たちは多かれ少なからずSFの影響力を受けているのは間違えない。つまりSFの想像力が現実に影響力を与え、世界を冗談抜きで変えているのだ。だからこそ、小生自体このジャンルにはまったのだろうと思う。

人生に変革をもたらすSF(いいのか?俺?)

小説という虚構の体裁の中で、ディストピアに対してどう対抗するのか」ということを意識したのは、『光の王』のお陰だろう。ありがとう、ゼラズニイ。2020年COVID-19禍のもとで、フェイクニュースや分断が進む中でどさくさに紛れて政府や富裕層が富を人々から吸い上げようと手ぐすねを引いている中で、「いかにして我々は、世の中の不条理や政府の腐敗に対して抗議・抵抗をしていくのか」を意識することが必要。SFを含めた海外文学は我々に政府の腐敗に対抗するための力を与えてくれる。その結果、自分自身の人生について考えてみると(もう半ばまで来てしまったが)、海外小説に影響を受けたお陰で腐敗防止を研究することが一生の仕事になるとは思ってもいなかったのだが、SFというジャンルや海外小説を積極的に読むことによって人生が変わったのは確実である。まさに人生を改変するSFの世界である。

海外文学の魅力

海外文学の魅力は、古今東西、その時代に生きた人たちが自分たちの生きざまを通じて寓話という形でメッセージを伝えてくれることにある。そしてSF小説を蒐集していくうちに、純文学や一般小説の中にも、SFの手法を使って物語が構築されているものが多いことに気づいたこともある。蒐集当時、森下一仁『現代SF最前線』(双葉社)石堂藍・東雅夫『幻想文学1500ブックガイド』(国書刊行会)あたりに、幻想文学やSF小説に関連した周辺領域の書籍がたくさんあり、「こんなにオラ読んでいない本があるんだ、一生懸命集めない」と蒐集欲が出てきて、古書店に足しげく通ったのが懐かしい。

古書狩り

当時はアマゾンマケプレ、メルカリなどの便利なシステムはなく、足による古書店探索が有効だった。どの地域にどんな古本屋があるのか、知識があることが重要で、定点観測することで古本をゲットしていった。特にお世話になったのは、学芸大学の古書いとう、大岡山の日月堂、中野の古書ワタナベ、西荻窪の音羽館、吉祥寺のよみたや、白金台にあった白金ブックセンター、荻窪のささま書店、神保町のRBワンダー、川崎の近代書房、早稲田の古本街(壊滅してしまったが)など。あとは黎明期のブックオフで、100円均一コーナーで漁っていたのが懐かしい(サンリオSF文庫とか、普通に拾えた)。当時はとにかく知識がないので、『ダイヤモンド・エイジ』に出てくるプライマー(本のような学習デバイス)で勉強したネルが知識を得るように海外文学の知識をつけて、探求書としてリストアップしていた(当時は、ガルシア・マルケスすら知らない人でした、恥ずかしい)。その後SF沼にはまり、ファンダムに属していなかったこともあり、ネットの読書系有志とDASACON(第三勢力コンベンジョン)など、色々とイベントをやったり、山岸真さん、故・小川隆さんの主催のぱらんてぃあに出てみたり、SFセミナーに参加し、SFの知識を吸収していった(何せ、SF業界は怖い人がおおかったので!)。そしてSFセミナー等の合宿のオークション等で、古本のすごい人たちに鍛えられて本を集めて、現在に至りました。当時は相場観がわからず、プレミア価格で買った古本も多かったけど、何が稀少なのかを知ることができて勉強になったと感じている(ちなみに一番高かったのは何だろう、と思ったのだがカスミ書房で買ったサミュエル・R・ディレイニー『プリズマティカ』(早川書房)だったかもしれない。今は亡きサンリオSF文庫から出ていた『エンパイア・スター』が読めたのもあった。ただし訳者は違うけど。あとNW-SF社から出ていた『死亡した宇宙飛行士』かな、こちらは古書ワタナベ)。本を入手する楽しさ、というのも海外小説を読むモチベーションにつながっていたのかもしれない。

最も海外文学を精力的に集めようと決意したのは、いわゆるサイエンス・フィクションの手法を使いながら、社会の在り方や日常の揺らぎを表現した小説ジャンルであるスプロール・フィクション(SFM2003年6月号)(故・小川隆さんが提唱)の登場だった。それ以来、スプロール・フィクションのジャンルの作家を意識して、これからの社会の在り方を意識した海外文学を蒐集することを意識していった。そのおかげで読書の幅が広がったかもしれない。最後に、ここ数年の読書に影響を及ぼしている小説をざっくりリストアップしたい。

今を生きるために

ニール・スティーブンスン『スノウ・クラッシュ』『ダイヤモンド・エイジ』(ハヤカワ文庫SF)
コリイ・ドクトロウ『リトル・ブラザー』(早川書房)、『マジック・キングダムで落ちぶれて』(ハヤカワ文庫SF)
・ジェフ・ライマン『エア』(早川書房)
・チャールズ・ストロス『アッチェレランド』(早川書房)
・デイブ・エガーズ『ザ・サークル』(ハヤカワ文庫NV)

まとめて見ると、割と自分が好きな小説の傾向が見えてくる。現在がようやく彼らのヴィジョンに追いついてきた。評価経済など、今現在進行形で起こっている社会変革と、その背後にある光と闇を描き出している。特に『エア』や『ダイヤモンド・エイジ』の主人公たちは開発途上国で生きる人々が教育にアクセスすることへの大切さを感じさせるし、その方向に我々は社会をより良い方向に導くために頑張っていかなければならない。このようなヴィジョンを与えてくれる海外文学に影響を受けた中年は、なんとかより良い方向に社会を持っていきたいと日々苦闘しながら、今日も海外文学を読む。


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