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Deux vies trop blessées

「僕が君にずっとキスしたかったこと、君はいつから気づいてた?」

あなたから聞きたかった言葉の全てを、彼は惜しげも無く私にくれる。

「待って、ちゃんと話したいことがある・・・」

この街に来た本当の理由を話すのはつらかったけど、それを知らない人に触られたくない。

私は元婚約者のエゴのためにこの街に連れて来られたことを、彼に話した。

大好きな仕事をやめ、大好きな友達や家族と別れ

縁もゆかりもない外国の街にやってきたけれど、結局私は元婚約者のことも拒絶してしまったこと。

この街に来てからずっと、誰かに必要とされたかった。

でもその相手は、いま目の前にいる彼じゃないことも。

(あなたをまだ想っていることだけは、言えなかった。)

「僕も君に、話したいことがある。」

彼は5年付き合った女性と、半年前に別れたらしい。

二人は最後まで愛し合っていたけれど、彼がムスリムであることを

彼女の家族は受け入れることができなかった。

子どもはいなくてもいいから、ずっと彼のそばにいたかった彼女。

ムスリムの子どもを授かって、ムスリムのあたたかい家庭を築くことをずっと夢見ていた彼。

彼女は愛する彼の未来を想って、彼の部屋を出た。

「君とずっと一緒にいられないことはわかってる。でも少しの間一緒にいよう。

僕たちはお互い傷ついて、ひとりぼっちだったけど、今は違う。

この先愛し合うことができなくなっても、ずっとそばにいるから。」

そう言って彼に抱きしめられたとき、彼がかつて愛した彼女のことを想った。

彼がムスリムではない、フランス語すらカタコトの女を抱きしめたと知ったら、

しかもその女は彼ではなく、昔の男を来る日も来る日も恋しく想っていると知ったら

彼女はどんなに悲しむだろう。

「ねえ、もうキスしてもいい?」

気づけば、年が明けて4時間ほど経っていた。

さっきまで一緒に参加していたニューイヤーパーティーで

信仰上お酒が飲めない彼に見せつけるように、普段は飲まないウイスキーを浴びるように飲んだツケが

とうとう回ってきていた。

おいしい味噌汁を飲みにいきます。